実際には、賃金の伸びが、きわめて緩やかにとどまっていることを踏まえると、現在、決して少ないとは言えない企業が人手不足を強く感じているのは、デフレ時代のようにコストを抑制したままで、賃金水準が低い若年層などの労働者を確保することが難しくなった、という側面が大きいのかもしれない。労働市場の需給を反映しない低い賃金水準で働き手を確保しようとする企業ほど、人手不足を強く認識しているように思われる。
賃金が明確に上昇し始めるまで金融緩和を継続すべき
日本では1990年代半ばからのデフレ経済が長引いた。それゆえ、売り上げが拡大しない世界を前提にすれば、いわば「極限まで人件費を抑制すること」が、生き残るために必要な経営判断になっていた。この期間が大変長かったために、企業が人件費を抑制しようとする行動に依然として大きな影響を与えているのかもしれない。
しかし、労働市場が「適正に逼迫する」現在の状況が長引けば、人材確保を優先させる企業は、人事制度を柔軟・多角的に運用することなどを通じて、賃金を高めることが合理的な行動になるだろう。現在の2%台の失業率が長期間続き、こうした労働市場がこれからも続くとの認識が強まることで、いずれ日本でも賃金は明確に上昇し始めると予想される。
こうしたプロセスを経て、達成が遅れている2%インフレの実現が視野に入ってくるとみられる。日本経済がそうした状況まで正常化してはじめて、人手不足など労働市場の供給制約が経済成長を阻害する可能性が出てくると見込まれる。
なお、筆者は、規制緩和などによって経済の供給側(天井)を高める政策を否定しているわけではなく、必要な政策は進めるべきだと考えている。ただ、インフレ・賃金の伸びがいまだに低水準にとどまっている現状を踏まえれば、金融財政政策については緩和的な政策を継続することが、依然として重要だと考えている。
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