ゴーン氏vs特捜部、これからのシナリオは? 史上最も著名な外国人経営者をどう扱うのか

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足利事件で菅家利和氏を無罪に導いただけでなく、ロッキード事件、平和相互銀行事件、鈴木宗男事件、日興インサイダー事件など、特捜部事件も含め刑事事件全体で豊富な経験を持つ佐藤博史弁護士は、「今回は特捜案件なので、取り調べは録画されている。ゴーン氏が容疑を否認しているという報道が事実なら、有能な通訳を使って取り調べているはず」だという。

佐藤弁護士によれば、「日本語が話せる外国人の場合でも、外国人の取り調べは通訳なしで日本語で行われるが、調書を録取する際は通訳を使う。ただ、和文の調書の内容を通訳に口頭で説明させるだけで、容疑者の母国語に翻訳した文書を渡して読ませることはしていない」という。

それでは供述した内容と異なる内容の調書を作成された場合、日本人ならばそのことに当然に気づくが、外国人でも気づけるよう、通訳は調書の内容を正確に伝えてくれるのだろうか。

「署名させるのは和文なので、そこはさすがに後日、問題にならないよう、通訳には正確に伝えさせ、なおかつ録音もする。今回は特捜案件なのでそもそも可視化の対象。証拠が残るので、供述と異なる調書が作成されることはないだろう。調書は和文で作成され、通訳が口頭で説明する場面が録画されることになるはず。したがって、英文での調書は作成されないだろうが、ゴーン氏が、弁護士がチェックしたものでなければ署名しないと言えば、検察官は弁護士による和文調書のチェックを認めざるをえないのではないか」(佐藤弁護士)。

佐藤弁護士は、ロッキード事件で事情聴取を受けた、日系2世のシグ片山氏の弁護をした際、自ら英語で取り調べをし、英文で調書を作成した河上和雄検事(当時)から、和訳した調書のチェックを認められた経験を持つ。

片山氏が、弁護士による和文調書のチェックを英文調書への署名の条件にしたために実現した措置だった。

「今回、弁護士による和文調書のチェックが実現すれば、日本人にも同じことが認められるようになるはず。取り調べへの弁護士立ち会いは無理でも、一歩前進と言えるので、ゴーン氏にも、ゴーン氏の弁護人にも頑張ってもらいたい」(佐藤弁護士)

もっとも、「容疑者の運命を左右する調書を、母国語で作成して署名を求めるのは当たり前のことだし、これは現行制度下でも十分可能。それなのにやっていないことは大いに問題だ」(同)という。

検察が民間企業の権力闘争を利用することの是非

そして佐藤弁護士、白取教授ともに問題視しているのが、今回司法取引が使われた点だ。日本では今年6月に司法取引が導入されたが、日本版の司法取引は欧米諸国が導入しているものとは異なる。

欧米諸国が導入している司法取引には大きく分けると2つのタイプがある。1つは自分の犯罪を告白することで刑罰を軽減してもらう「自己負罪型」。もう1つが他人の犯罪を告白することで自分の刑罰を軽減してもらう「捜査公判協力型」。取引材料が前者は「自分の犯罪」であるのに対し、後者は「他人の犯罪」だ。それだけに捜査公判協力型はえん罪を生みやすいとされる。

厳密に言えば、捜査公判協力型にはさらに2つのタイプがあり、1つは自分が共犯の場合の情報を提供する「共犯密告型」と、自分が関与していない犯罪情報を提供する「他人密告型」がある。他人密告型は自分が関与していない分、共犯密告型よりもいっそう冤罪(えんざい)を生みやすいだけでなく、他人を陥れる目的で悪用されやすい。

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