《介護・医療危機》ケアマネの自立認めぬ厚労省、”安すぎる報酬”の狙い
高齢者が介護保険サービスを利用する際、「ケアプラン」と呼ぶ利用計画を作る。通常、ケアプランは、高齢者や家族との話し合いを通じて、ケアマネジャー(介護支援専門員)が作る。サービス開始後も、ケアマネジャーはサービス内容が適切かどうか、介護報酬が適切に請求されているかをチェックする。そうした役割の重要性から、「介護保険の番人」と呼ばれることもある。
そのケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所が、経営不振を理由に突然閉鎖を宣言。利用者が慌てふためく事態が千葉県で起きた。
ケアマネジャーの鈴木梓さん(31)が、突然の解雇を言い渡されたのは今年9月20日。社長から突然、「10月末で事業所を閉鎖する」と告げられたのだ。鈴木さんが専属の職員として事業所の立ち上げにかかわってから、わずか4カ月で社長は事業に見切りをつけた。
鈴木さんによれば、「経営状態が悪いので閉鎖する。要はおカネの問題だ」と社長から説明を受けたという。だが、開設に当たっては「2~3年かけて黒字化させることを確認していた」と鈴木さんは語る。
「半年も経たずに閉鎖というのはどういうことでしょうか。私と社長だけの問題ではない。利用者や家族、介護サービスを提供している事業所にも迷惑をかけることになりますよ。廃止に至った経緯や理由については書面で明らかにすべきです」
鈴木さんはこう抗議したが、社長は「利用者には君からあいさつしてもらえば済む話だ。方針は変わらない」の一点張りで、10月末付で事業所を閉鎖してしまった。
鈴木さんの元には利用者やサービス事業者からのクレームが相次いだ。「病院の相談員の方からは、『無責任だ。私が依頼した患者さんはどうするんだ』と苦情が来ました」(鈴木さん)。また、不安になって、ヘルパーを責め立てる利用者や、独り暮らしの高齢者が突然、深夜の3時に「不安になった」と娘に電話をかけたこともあったという。自治体の担当者からは、「利用者には迷惑がかからないようにしてほしい」と釘を刺されたという。
わずか5カ月で閉鎖 ケアマネに抗議が殺到
鈴木さんは、利用者本人や家族宅に何度も足を運び、事情を説明するとともに、今後の対応策について話し合った。だが、「引き続き担当してほしい」と言われることが多く、最終的には10件の担当ケースすべてを、別の事業所に移籍した後も、引き続き受け持つことになった。
大学を卒業後、特別養護老人ホームの職員を経て、1年半前にケアマネジャーになった鈴木さんは、高齢者一人ひとりにしっかりと寄り添ってきた自負がある。「5カ月で新規10件の担当はまずまずの実績だと思う。病院の相談員や民生委員の方の信頼も得られるようになっていました。さあこれからという矢先での解雇通告、事業所閉鎖は、まったく理解できません」(鈴木さん)。
開設から5カ月で「店じまい」とは驚くが、居宅介護支援事業所が大幅な赤字を続けていることは、厚生労働省の調査(下グラフ)からも一目瞭然だ。その原因はケアマネジメントに対する介護報酬が著しく低額に設定されていることにある。