サウジ記者殺害「ありえない幕引き」の代償 CIAはムハンマド皇太子はクロと断定したが

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トルコ人識者は「ギュレン師がアメリカから送還されれば、エルドアン大統領はムハンマド皇太子を権力の座にとどまらせる政治的な妥協に応じるだろう」と指摘する。エルドアン政権に近いトルコ紙サバハも、「ギュレン師のグループがアメリカの法律に違反した容疑で連邦捜査局(FBI)が捜査を開始した」と報じており、近くギュレン師をめぐって動きがあるかもしれない。

一方、エルドアン大統領が政治な妥協に応ぜず、あくまでムハンマド皇太子が殺害を指示したことを認めさせるのに固執すれば、今後の展開はどうなるのだろうか。そのボールはトランプ大統領に投げられた形になっている。

ムハンマド皇太子はどうなるのか

カショギ氏の遺体が見つからず、ムハンマド皇太子が事件に関与した決定的証拠も欠く中、トランプ大統領は「(皇太子は事件を)知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない」とはぐらかして、事件の幕引きを図りそうだ。同大統領が言うように、欧米がサウジから手を引けば、中国やロシアがサウジから利益を得ることになる。ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義社長をはじめ、サウジとの関係を今回の事件で損ないたくない、というのが多くの利害関係者の本音だろう。

「殺人に関与した」とのイメージがついたムハンマド皇太子だが、サルマン国王が皇太子を守ろうとする一方で、国王の実弟で元内相のアハメド王子は皇太子に厳しく出る可能性がある。約6年の海外生活に終止符を打ってサウジに帰ってきたばかりのアハメド王子は、合意形成を重視する政治手法で知られ、ムハンマド皇太子の政治姿勢を批判してきた。ムハンマド皇太子に対する不満はサウジ国内でもくすぶっており、王子の帰国は、王位継承問題に影響を与えるとの観測も浮上している。

これに対し、ムハンマド皇太子は今後数カ月の間に再び権力固めを図り、体制立て直しに動く可能性が高い。トランプ大統領の発言により、アメリカのサウジへの制裁は、皇太子の側近ら17人といった形で限定的なものにとどまりそうだ。エルドアン大統領には、外交的な取引で何らかの譲歩を行う可能性がある。

こうしたアメリカの政治姿勢は、中東の独裁的な指導者に対して、何をやっても許されるというメッセージを与える。人権や民主主義的な価値観を軽視するトランプ大統領が、ムハンマド皇太子や他の指導者たちの乱暴な政策を助長することになるだろう。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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