サウジ記者殺害「ありえない幕引き」の代償 CIAはムハンマド皇太子はクロと断定したが

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エルドアン大統領は、先のアメリカ中間選挙前というタイミングを見計らって、拘束していたアメリカ人牧師をトランプ大統領の求めに応じて釈放した。一方、2016年のクーデター未遂事件の黒幕とエルドアン大統領がみなす、アメリカに滞在中のイスラム教指導者ギュレン師の引き渡しを求めている。

トルコがカショギ氏殺害事件での政治的な決着になかなか応じないことから、トランプ政権はエルドアン大統領から譲歩を引き出すため、ギュレン師のトルコ送還の検討を始めたとも報じられている。

今回の騒動には、日本政府も関係することになった。カショギ氏殺害事件でサウジが国際社会の批判の矢面に立つ中、トルコとカタールの仲介で3年以上も内戦下のシリアで拘束されていた安田純平さんが10月下旬に解放された。

今回の事件をフル活用しているエルドアン大統領

両国は蛮行を犯したサウジと対照的に振る舞うことでイメージアップを図ったほか、貸しを作った形の日本政府には、ギュレン師と関係のあるトルコ人2人の引き渡しを求めている。エルドアン大統領は、欧米から政敵引き渡しの譲歩を狙うなど、内政面で今回の事件をフル活用している。ただ、事件を奇貨に得点を狙うのは内政にとどまらない。

サウジアラビアは、メッカとメディナというイスラム教2大聖地の守護者という立場で、アラブやイスラム世界の盟主を自認しているのに対し、トルコはオスマン帝国の系譜を引く大国として影響力拡大を狙い、両国は主導権争いを演じている。サウジが主導した2017年のカタールに対する断交の際も、イスラム組織ムスリム同胞団に対する支援など政治思想を共有するトルコが緊急支援に乗り出し、生活物資に事欠いたカタールの窮地を救った。

ムハンマド皇太子はカタールとの断交など手荒いサウジの外交政策を主導しており、エルドアン大統領は、ムハンマド皇太子を権力の座から引きずり降ろすことに成功すれば、サウジとの影響力争いを優位に展開できるとの読みがある。さらに、サウジはエジプトやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンと徒党を組んでおり、ムハンマド皇太子を弱体化できれば、4カ国の連携を弱めることもできるともくろんでいる。

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