実は超難しい「乳がん診断」、スゴイ新技術

死亡者ゼロを目指す、ある研究者の野望

「つまり、乳房の中のがん組織で反射(散乱)したマイクロ波を正確に計測できたとしても、その計測データから、がん組織の位置や大きさを求めることは不可能だと考えられてきました。これまで散乱の逆問題の解を解析的(数学的)に求めた者は誰もいなかったですし、コンピュータを使って力づくで計算しようとしても、最新のPCを数日間、ぶっつづけで動かす必要がありました。しかも、計算で得られ解のほかに、別の解が存在しないという保証もなかったんです」

これでは、現実の医療検査に利用するにはほど遠い。マイクロ波マンモグラフィの実現には、このような大きな壁が立ちふさがっていた。

世界初マイクロ波マンモグラフィを開発

この「散乱の逆問題」という、解決不可能と考えられてきた超難問を、世界で初めて解いてみせたのが木村教授だ。木村教授は、多重経路の散乱場を五次元の方程式で記述し、その解を求めることに成功した。さらに「時間と空間の極限操作」という手法を使って、散乱をおこす物体の三次元形状を求める関数を導き出した。

「多重経路散乱場の逆解析」の基礎方程式。木村教授が導き出した「散乱場の方程式」は、独立して動く波の発信位置と計測位置それぞれの座標で5次元からなる。これを「時間と空間の極限操作」と呼ばれる数学的な操作によって散乱体の3次元構造を示す関数を導き出す(図:HILLS LIFE)

「多重経路散乱場の逆解析」と呼ばれるこの理論は、学問上の成果であるだけでなく、「散乱場の逆解析」という理論を実用的な応用につなげる、革命的なブレークスルーといえる。

「この発見によって、今まで医療現場では使えないと考えられてきたマイクロ波を、現実の乳がん検査に利用する道が見えてきました」

木村教授は、理論上の大発見だけでは満足しない。彼の目標はあくまでも、実際の医療現場で使える乳がん検査を実現することなのだ。

木村教授は、自らが作り上げた理論と最新の半導体技術を組み合わせ、世界初のマイクロ波マンモグラフィを開発することにも成功した。このまったく新しい乳がん検査装置は、乳房内のがん組織の位置や大きさを3次元的に、正確に、ほぼリアルタイムで計測できる性能を持つ。マイクロ波を使うため、「デンスブレスト」の乳房でも乳がん組織を明瞭に識別できるし、使用するマイクロ波は、携帯電話の千分の一以下の微弱なもので、被爆の心配もない。

次ページ数年後の実用化を目指す
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