「ボロボロにされた女性」が集う施設のリアル 多くは性暴力の被害者、加害者は身内

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婦人保護施設は1956年制定の売春防止法と2001年制定のDV防止法が根拠法となって全国に設置されている。全国47カ所しかなく、貧困や精神疾患などで自立して社会生活が送ることができなくなった、ボロボロになった女性が措置される場所である。

「日本は法律に問題があり、単身女性を守る法律が売春防止法しかないのです。昔は売春する女性のみに適用されたのですが、対象が広がって現代では女性全般に広がりました。そして今は貧困だったり、困難を抱えた女性たち全般を支援する施設になっています。

特徴としては、一般女性の精神疾患や障害、その背景にさらに暴力があったり。生きづらい要素を、本人の問題というより、成育のなかで過酷な状況下に置かれてきた女性たち、そういう方たちが利用しています。婦人保護施設という古めかしい嫌な名前ですけど、ここは生活をつくり直す場所なのですね」(横田施設長)

現在の利用者の特徴は、外に勤めに出る人もいれば、施設内にある喫茶店勤務や就労継続支援、就労移行支援などで働く人もいる。平均在寮は3年5カ月と長く、10年以上の人もいる。精神科受診者や暴力を受けてきた人も多い。

驚くことに、性虐待の加害者は、夫、内夫、継父、兄、弟、祖父、おじなどの身内が多いという。

時代にそぐわない形で残っている売春防止法

あまり知られていないが、売春防止法は、女性による勧誘行為を罰則の対象としている。売春は違法行為でも、売る女性は処罰されて、買う男性側には何もない。時代にそぐわない形で残っていて、法律に偏りがある。さらに、現在でも勧誘行為の摘発はたまに行われて、路上で街娼が男性に声をかけるだけで逮捕される可能性がある。

売春防止法制定の背景にあるのは、戦後の混乱期の貧困だ。そして、現在に至るまで女性たちの貧困は形を変えて継続している。戦後の貧困から売春に走った女性を保護した婦人保護施設の利用者も、途切れることはない。貧困も形を変えて、路上の売春婦から、現在は性虐待の被害にあって精神疾患に陥り、貧困からはじめた風俗や売春でさらに傷つき、社会復帰が困難という女性たちだ。

「ここは終戦後10年目から。日本が最も貧困だった時代を生き抜いてきた女性たちを保護しました。貧困、街娼、生活難、お手伝いさん、子守りとか、今はこんな言葉使わないですけど、こういう女性たちが入所していた。背景にあるのは日本全体の貧困で、とにかく性を売買するしか手段がなかったわけです。生きづらさを抱えた女性たちの苦境は、現在もまったく変わってないといっていいのです」(横田施設長)

東京の片隅にある婦人保護施設は、まさに社会的貧困の縮図だった。

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