ベンチャー「サンバイオ」株が急騰したワケ 外傷性脳損傷治療薬の早期承認に大きく前進

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SB623はサンバイオの基幹となる開発製品で、TBIのほか慢性期脳梗塞でもアメリカで治験2相後期を実施中(大日本住友製薬と共同開発)。国内では今年2月、導出先の帝人ファーマから開発権を取り戻した。

今後、加齢黄斑変性やパーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマーなど、脳神経、中枢神経にかかわる幅広い疾患への適応も検討している。これまでの日米の治験で安全性には問題がないとされていることから、適応拡大にあたっては有効性試験だけですみ、1つ承認が取れれば次々に適応範囲が広がる可能性がある。認知症については創業科学者でもある慶應大学医学部長の岡野栄之教授と共同研究を開始している。

承認後に向けた製販態勢も着々と整備

細胞治療というと、患者本人の細胞を採取・培養し体内に戻す自家細胞が主流だが、SB623は健康なドナーの骨髄液から採取した間葉系幹細胞を大量培養して製剤化する、他家細胞(他人の細胞)による治療薬だ。自家細胞薬と異なり、量産・保存できるので待ち時間なく治療を開始でき、コストを低く抑えられるメリットがある。他家細胞利用で難しいとされる免疫適合の問題については、投与したSB623の細胞そのものはいずれ消滅してしまうため、これまで大きな問題とはなっていない。

承認後に向けた製販態勢も着々と整えている。治験薬はアメリカの製造受託業者を使っていたが、国内製造販売のために日立化成と提携。日立化成の米子会社と横浜の製造拠点で技術移転を進めているところだ。

国内では自社販売の方針で、少しずつスタッフの採用も進めている。9月には適正使用や普及、安全な流通態勢整備に向け、医薬営業支援のケアネットや医薬品商社のバイタルケーエスケーホールディングスなどと資本業務提携を結んでいる。

9月21日に2019年1月期の第2四半期決算を発表する森敬太社長(記者撮影)

「TBIは現状、交通事故など1回の出来事による損傷を対象としているが、将来的にはスポーツなどへの拡大も検討課題」と、森社長は意気込む。日本では再生医療というとiPS細胞への注目度が高いが、実は体性幹細胞の実用化のほうが早い。すでに承認されているテルモのハートシートやJCRのテムセルも間葉系幹細胞など体細胞由来の製品だ。

サンバイオはほかにも間葉系幹細胞を中心とした開発計画があるが、当面はSB623の適応拡大が目白押しだ。今年4月に野村証券当てに発行した新株予約権はものの2カ月で権利行使され、110億円を調達。目先の研究開発資金は十分にある。

当面はTBIでの条件付き承認の申請と取得がいつになるのかが焦点となる。2019年はサンバイオにとって大きな転換点になりそうだ。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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