日本で伝えられないアメリカ中西部の「苦悩」

トランプ選出したウィスコンシン州のその後

酪農を中心とする農業も主要産業だ。地元産牛乳の大半はチーズに加工されるというが、「牛乳価格の低迷が特に小規模な酪農家の生計を圧迫しており、大規模化や機械化・省人化投資ができる農家でなければ生き残れなくなっている」と、ヴァルダーズを拠点にマニトワック郡周辺地域の読者を対象に週刊でコミュニティペーパー「ヴァルダーズ・ジャーナル」を発行するブライアン・トムセン氏は話す。

冬が厳しことで知られるウィスコンシン州。写真はミルウォーキー(写真:Toshi/PIXTA)

冬の寒さが厳しいウィスコンシン州にはドイツや北・東欧からの移民をルーツに持つ住民が多い。そのため、都市部などの例外はあるものの、現在も州人口の過半を白人が占める。前回選挙でトランプ大統領はいわゆる白人労働者層に支持されたと言われているが、ウィスコンシンでの勝利の背景には、製造業の雇用機会の喪失や労働者組合の弱体化、零細農家経営の苦境など、同州の産業構造の変化も関係しているのだろう。 

「人手が足りないという声のほうが多い」

ただ、筆者が訪れた地域の雇用状況などを見るかぎり、「ラストベルト」などという言葉から連想したほどには足元の景気は悪くない印象だった。ミルウォーキー中心地の目抜き通りの商業ビルにはおそらく小売店だった跡らしい空室がいくつも目についたが、レイクサイドに沿って郊外に向かえば、スーパーや小ぎれいなレストランなどが集まる新興住宅街が所々に出現。高速道路など道路や橋などの補修や建設工事もあちこちで目にした。

「ここ十数年の間に、100年以上歴史のあったアルミ調理具メーカーの工場が閉鎖したり、マニトワックという地名にちなんだクレーンのメーカーがペンシルバニアに工場を移転したりしてそれぞれ数百人単位で仕事を失った。一時はマニトワックで仕事が見つからず、ミルウォーキーなどで職探しをする人も増えたが、最近は周辺も含めて人手が足りないという声のほうが多い」と、前出のトムセン氏は話す。

ミルウォーキー美術館(筆者撮影)

シボイガンに住む主婦も「若い人たちが就きたい仕事かどうかは別として、ヘルスケア関連や老人介護施設などではつねに人材を募集している。少し前までパート勤めしていたスーパーからは戻ってきてくれないか、といった声がかかる」と、どうやらこの地域の皮膚感覚では景気はそれほど悪くないようだ。

「5月にイリノイから移ってきたばかりだが仕事は忙しい」とオークレアのタクシー運転手も話す。「地元空港近くに新しいホテルやコンサート会場まである市街地が開発されているし、ここは景気がいいんじゃないの」。賃金水準の上昇につながっているかどうかは疑問だが、リーマンショック後のリセッションを経て景気は上向き傾向にあるというのが今回訪ねた地域での印象だ。

トランプ大統領も足元の経済状況が良好なことを選挙応援演説で強調し、自らの功績として挙げている。ただ、現状への不満がないことは有権者の積極的な投票行動につながらない可能性があり、どこまで実際の選挙の行方を決める争点になるかどうかは読みづらい。

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