渋谷ハロウィン痴漢被害者は自己責任なのか 安田純平、女子体操を声高に叩く人の危うさ

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また、自己責任論に「そうだ」「その通り」と追随する人が多いのは、「個人では人を攻撃しづらいけど、誰かとつながって集団になれば、攻撃しやすくなる」という思考回路。しかし、この構図は、「ミスを犯した1人の社員を上司が徹底的に叱り、同僚たちも『あいつが悪い』と追随して見下す」という意味でブラック企業と似ています。

ミスを犯した社員を徹底的に叱る上司は得てして、「彼のためであり、これは愛情だ」「再発防止や抑止につながる」と言いますが、それが本人に合い、業績が上がる方法かは疑問。仕事上で自己責任論を訴える人ほど、指導能力が低く、結果は部下任せであることが多いものです。

数字優先で一貫性を欠くメディア

もし自己責任論をぶつけるとしたら、ミスを犯した人ではなく、メディアではないでしょうか。たとえば、安田さんのニュースでは、「持論として英雄視したと思ったら、世間のムードを見て個人を叩き始めた」というメディアが少なくありませんでした。あるいは、多くの著名人がコメントし始めたのを見て、それを並べて報じるだけの責任を放棄するようなメディアもありました。

前述した“私刑”という面でメディアの威力は大きく、世間の印象を決定づけてしまうところがあります。もちろんビジネスでやっている以上、テレビなら視聴率、新聞や雑誌なら販売部数、ネットならページビューやユニークブラウザを稼がなければいけないのは当然ですが、客観性や一貫性、バランスや配慮を欠いた報道では、メディアとしての信頼性を失ってしまうだけ。もしかしたら今回のようなメディアの報道こそ、「信頼を失いかねない」という意味では自己責任を問われるのかもしれません。

最後に、「凶悪犯罪の増加から、厳罰化を望む声が高まっている」ことと、今回の自己責任論は次元が違う話であり、混同は禁物。自分たちで息苦しい世界へ突き進んでしまわないようにしたいところです。

また、見知らぬ人への懲罰感情で自分のストレスを解消するのは不可能。心の中に「人を罰した」という負の感情を蓄積させ、何気ない幸せに気づけない人になってしまうだけであり、公私ともにポジティブなことはありません。もしあなたが賢明なビジネスパーソンなら、集団で生きていることを踏まえたうえで、人を罰しない形で共存していく方法を考えられるはずです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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