渋谷ハロウィン痴漢被害者は自己責任なのか 安田純平、女子体操を声高に叩く人の危うさ

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このような思考になりがちなのは、社会的なステイタスが高いタイプや、管理職など仕事上でリーダーシップを求められるタイプ、あるいは金銭的に恵まれた生活をしている人。「足を引っ張られてステイタスや生活の質を下げられたくない」という強迫観念のようなものがあるため、他人を突き放してしまいがちです。そういう立場の人が自己責任論を口にするほど周囲の人々は距離を取りたくなり、徐々に孤立していくでしょう。

また、とりわけ自己責任論がヒートアップするのは、渋谷のハロウィンなら警備費用、安田さん解放なら身代金、体操協会なら助成金のように、税金が絡むとき。つまり、「自分の稼いだお金がミスを犯した人を助けることに使われるのは許せない」という発想の人が強烈な批判を繰り広げています。

税金などのお金に反応して自己責任論を訴える人に多いのは、日々の生活にどこか満たされない思いを抱えている人。仕事内容や待遇、上司や同僚、恋愛や結婚、生活環境や体調、さらに国や社会そのもの……。これらへの不満を抱えたまま軽減させる方法がない人ほど、見知らぬ人に自己責任論をぶつけたがる傾向が見られます。

たとえば、「やりたくない」「向いていない」「お金が足りない」「人に恵まれない」「面倒くさい」「ストレスがたまる」と感じているときに、ニュースなどでミスを犯した人を見ると、「オレだって思い通りにならない日々を過ごしているのだから、ミスをした人は自分で責任を取るべきだ」と考えがちなのです。

ステイタスが高く、恵まれた生活をしている人は、「自分の現実とだけ向き合いたいから、見知らぬ他人の現実には向き合いたくない」。日々の生活に不満を感じている人は、「自分の現実と向き合えないから、見知らぬ他人の現実と向き合ってしまう」。同じ自己責任論を訴えていても、これだけの違いがあるのです。

ビジネスとしてもスケールダウン

しかし、私たちは自己破産や刑罰などのように、原則として「有限責任の世界観で生きている」のが現実。社会保障や免責事項などに守られていることも含め、多くの人々で形成された集団として生きているのです。その集団の中には、自己責任論を訴える人がいれば、うまく適合できない人や同意したくない人もいますし、両者がいるからこそ価値観の一元化や極端化がされずに済んでいるとも言えるでしょう。

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