混迷する世界で問われるオバマのリーダーシップ--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授
オバマ次期大統領が直面する問題
金融危機の真っただ中でも技術の急速な進歩のペースは変わらず、さらに国際化が進展している。しかし、技術進歩の政治的な影響は、国民国家で形成される世界と国家が存在しない世界では異なる。
国家間の政治領域で最も重要な要因は“アジアの復活”だ。1750年にはアジアは世界の人口と産出量でそれぞれ60%を占めていた。産業革命後の1900年には産出量は世界の10%にまで低下している。しかし、2040年までに過去のシェアにまで回復すると予想される。
中国とインドの台頭は不安定をもたらすかもしれない。しかし、私たちは、政策が結果にどのように影響を及ぼすか歴史から学ぶことができる。1世紀前、イギリスは対立することなく米国の台頭を受け止めた。しかし、世界はドイツのパワーの台頭への対処で失敗し、2度にわたる壊滅的な戦争を引き起こした。
国家が存在しない世界の登場にも対処しなければならない。01年にテロリストグループは、日本が真珠湾で殺した以上の米国人を殺している。鳥や旅行者を媒介とする疫病の感染も、二つの世界大戦で死んだ数以上の人を殺すかもしれない。パワーが国家を離れて分散する問題は、国家間でのパワーの移行よりもはるかに難しい問題なのである。
バラク・オバマ氏が直面する困難さは、多くの問題が米国の影響外にあることだ。米国が伝統的なパワーを行使したとしても、世界は情報革命と国際化によって米国が単独で国際的な目標を達成できないように変わってきている。
国際金融の安定は米国の繁栄にとって重要である。しかし、金融安定を確実なものにするためには他国の協力が必要である。気候変動も生活に影響を及ぼすが、米国は単独で問題を処理することはできない。ドラッグから伝染病、テロリストに至るすべてのものが国境を越え入ってくる世界では、共通の脅威や課題に取り組むために国際連携を進める必要がある。
米国の指導力は依然として重要である。問題は米国のパワーの低下ではなく、他の国の支援なしには最強国でさえ目標を達成できないことを認識することである。幸いオバマ氏はそれを理解している。
ジョセフ・S・ナイ
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。
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