党首選断念、「メルケルなきEU」はどこへ行く 経済が絶好調でも「理想主義」はウケなかった
しかし、この一強状態が次第に「強いにもかかわらず他者のことを考えないドイツ」の身勝手さ、未熟さ、傲慢さとしてクローズアップされるようになった。ドイツ経済が「最強」であることは誰しも疑わないものの、その危うさが近年、指摘されることが多くなったのは周知の通りである。さらに話を複雑にしているのがメルケル首相の性格だろう。
牧師の娘として生まれ育ったメルケル首相の抱く人道主義的ないし理想主義的な欲求はことさら強く、これが強い経済力や政治力と結びつくことで「道徳主義的帝国主義」という揶揄まで聞かれるようになった。この発言は難民受け入れ問題をめぐってハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相が発したものだ。なお、緊縮財政に固執する政策姿勢もメルケル首相の理想主義と親和性が高く、やはり南欧諸国から忌み嫌われる対象となった。
ドイツを中心に縦・横・斜めに亀裂が走る
ちなみにこうしたドイツとの不仲はかねて南欧が有名だが、実は近年、ドイツの「友人」は少なくなっている印象を受ける。緊縮路線をめぐって関係が悪化したギリシャを筆頭とする南欧はもとより、移民問題をめぐっては東欧(ポーランド、ハンガリー、チェコなど)、EUの運営方式をめぐっては裕福な沿岸諸国(デンマーク、フィンランド、スウェーデンなど)ともぎこちない関係が見られ始めている。こうして今の欧州大陸はドイツを中心として縦・横・斜めに亀裂が走っている現状が指摘される。
なお、長らくドイツの味方と思われたオーストリアでも、メルケル首相の移民政策を契機に2017年の総選挙で極右政党が台頭した。周辺諸国を見ればウクライナ問題をめぐってロシアとも対立している。去り行く英国との関係は論じる必要もあるまい。域外に目をやれば新自由主義「最後の砦」とも評されるメルケル政権と保護主義を前面に押し出すアメリカのドナルド・トランプ大統領はまさに水と油の関係として世界の知るところだ。両者の違いは経済に限らず基本的人権などへの考え方にも及ぶ。
こうした不仲のすべてがメルケル首相の政治運営に拠るものだとは言わないが、小さくない部分に責めを負っていることも違いないだろう。もはや親しい大国は中国だけという論評も目にする。この辺りがメルケル政治の功罪のうちの「罪」の部分として議論される対象になるのではないか。
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