トランプ誕生は「1960年代からの必然」だった 「政治学の巨星」パットナムが語るアメリカ

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たとえばメキシコ移民への対応で移民の親子を引き離したことは、アメリカ国民、とりわけ多くの女性たちに衝撃を与えた。移民にどう対応するか、という政策論以前に、人間への対応としてこれが許されるのか、という怒りが湧き上がったのだ。これも、トランプ政権に打撃を与えるだろう。

トランプを誕生させた「怒り」

そもそも、トランプ政権の誕生も、「怒り」がきっかけだった。私はアメリカのポート・クリントンという町で育った。同じくその町で育った、メリー・スーという女性の話をしよう。

彼女は貧しい家に育ち、両親は離婚、実の父親は薬物中毒で、父が再婚した女性に虐待された。高校を中退したためにまともな職に就けず、付き合った何人かの男性ともうまくいかなかった。そうした状況が続き、彼女は怒っている。その怒りが、彼女をトランプ支持に向かわせた。

ロバート・D・パットナム/ハーバード大学ケネディスクール教授。1941年、ニューヨーク州ロチェスター生まれ。オハイオ州ポート・クリントンで育つ。イエール大学にて博士号を取得。2001ー2002年、アメリカ政治学会会長。ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の提唱者として知られる。2006年、ヨハン・スクデ政治学賞受賞(撮影:梅谷秀司)

ヒラリー・クリントンの経済政策に反対とか、トランプの外交政策に賛成とか、そうした理性的な理由などない。ましてや、これまでの資本主義や民主主義が悪いといった理由でもない。ただ、メリー・スーのような人々が抱いてきた、変えられない現状へのやるかたない怒りが集約され、トランプ大統領の登場へとつながったのだ。

クリントンが敗北した時、多くの人はありえないことが起きたと、衝撃を隠せなかった。しかし私は、研究者として、そうなることを予想していた。メリー・スーはただの特殊ケースではなく、格差の拡大は全体の問題と化していたからだ。

私は、アメリカ社会の格差の拡大を調査し、その成果を2015年に刊行した『Our Kids(邦題:われらの子ども、創元社)』という書籍にまとめた。この本の中で、このまま格差の拡大が続くと、デマゴーグのような人が大統領になる可能性がある。すなわち現在、ナチスの台頭を許したのと同じ状況がそろいつつあると、警鐘を鳴らした。

私の研究によれば、トランプの誕生は偶然でなく、1960年代半ばから続く格差拡大や、機会の不平等による必然だったのだ。

1960年代にいったい何が起きたのか。多くの人が重視するGDPなどの経済指標で見れば、1960年代以降もアメリカはずっと右上がりの状況が続いていた。

ところが、指標を変えてソーシャル・キャピタル(社会関係資本)、民主党と共和党の対立、格差指標などを見てみると、1965年頃を境に、悪化の一途をたどっていることがわかる。経済の成長とは裏腹に、社会の状況は悪くなっていたのだ。

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