アメリカでとてつもない格差が生まれた本質 現代の経済学をとことん考え尽くしてみる
日本企業は会社ごとに異なったガバナンスの形態をいまだに実験的に試しているところだと思います。ですから、アメリカ流のコーポレート・ガバナンスを悪と決めつけて、実験を閉ざすようなことをしてはいけない。ただ、日本企業がアメリカ的になるかというと、決してそうはならないという気がしています。むしろ、この議論で強調したいのは「遂行性」という問題です。
「遂行性」がもたらした結果は?
中谷さんがおっしゃるように、プリンシパル・エージェント理論は、現実の経営者の思考や行動に影響を与えています。このように思考の産物が現実を規定することを「遂行性」と呼びますが、こうした思考と現実の関係は、これからの経済学を考えるうえでも示唆に富んでいます。
中谷:瀧澤さんは著書のなかで、アメリカ流のコーポレート・ガバナンス論への批判として、経済学者の岩井克人氏の議論を紹介しています。彼は、株主と経営者の関係に、プリンシパル・エージェント理論を当てはめることは大きな誤りだと考えています。その結果、アメリカにはとんでもない所得の不平等が生まれてしまった。つまり、遂行性が負の効果を持ってしまったという診断だと思います。
僕も岩井氏の見方に賛成です。経営者と株主は、医者と患者の関係に近い。医者は専門知識を持っているけれど、患者は医学知識がないため、医者の処置が最良のものかどうかは判断できません。手術が不要なのに手術をされてしまったり、薬を必要以上に処方されてしまったりしたとしても、患者にはわからない。これを克服するには、医者がプロとしての適切な「倫理観」を持っているということが不可欠でしょう。
企業統治に関して言えば、経営者は医者に、株主は患者に当たります。経営者が不正に利益を捻出したとしても、外部(株主)からみて不正利益であるかどうかはわからない。いくら社外取締役の人数を増やしてみても、基本的には構図は変わりません。