アメリカでとてつもない格差が生まれた本質

現代の経済学をとことん考え尽くしてみる

では、本当の企業統治には何が必要なのか。岩井氏も指摘しますが、それは「倫理」の確立です。具体的には、経営者と従業員が一丸となって、不正を許さない組織風土を作り上げることです。そのためには、企業人のみならず経済学者、経営学者も、エージェンシー理論とは異なる企業統治のあり方を追求する必要があります。

経済学を再構築することの必要性

中谷:「遂行性」の議論にひきつけていうと、経済学にかぎらず、どういう人間観に基づいて制度をつくりあげていくか、ということが、これからはますます重要になっていくはずです。

これまでの議論を振り返って考えてみると、さまざまに分化した学問をもう一度総合化していかなければ人間社会全体を語ることができない。そのなかで、経済学はどのように再構築すればいいとお考えですか。

瀧澤 弘和(たきざわ ひろかず)/中央大学経済学部教授。1960年、東京生まれ。1997年東京大学大学院経済学研究科単位取得修了。東洋大学助教授、経済産業研究所フェロー、多摩大学准教授、中央大学准教授を経て、2010年4月より現職。専門は実験ゲーム理論、経済政策論、社会科学の哲学。著書に、『現代経済学』(中公新書)、共著に『経済政策論』(慶應義塾大学出版会)ほか。訳書に青木昌彦『比較制度分析に向けて』(共訳、NTT出版)、ジョセフ・ヒース『ルールに従う』(NTT出版)、ダグラス・ノース『ダグラス・ノース 制度原論』(共訳、東洋経済新報社)など(撮影:山内信也)

瀧澤:人間行動に対する自然主義的アプローチも、そもそもそれが悪であるとは言えないと思います。実際、行動経済学は役に立っているでしょう。私が言いたいのは、無自覚なまま、それによってわれわれの「人間観」が形成されてしまうことです。この危険性に自覚的であることが必要なのだと思います。人間や社会、制度などを多様な観点から見ていくことが重要です。

中谷:なるほど。昔の経済学は、人間の選択行動は合理的であるという「ホモ・エコノミクス」という前提をおいて、その前提から理論体系を築いていきました。その「合理的個人」という大前提をもとに理論構築に貢献した人が偉い経済学者になっていったわけです。

けれども今は、「人間はこうだ!」と昔のように決めつけることが不可能になっている。もっと深いところで人間研究をしなければ、経済の研究はできないということになっていますよね。これからの経済学の基礎には、人間そのものについて学ぶ機会がもっと用意されなければいけないのでしょうね。

瀧澤:本当にそう思います。これまでは、「経済学は人間の心理的本性にはかかわらない学問です」といった言い訳もできたわけです。ライオネル・ロビンズがまさにそうで、経済学は心理学とは関係がないと宣言しています。なぜなら、経済学は稀少性についての学問、つまり数学的な問題であって、人間の心理学とは関係ない、と切り離してきたところがあるからです。

でも、これからはそれでは立ち行かないでしょう。たとえば、デヴィッド・グレーバーという人類学者の『負債論』には、人間がどのように貨幣を使ってきたのかということが非常に詳細に書かれています。

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