アメリカでとてつもない格差が生まれた本質 現代の経済学をとことん考え尽くしてみる
コーポレート・ガバナンス論の危うさ
中谷 巌(以下、中谷):瀧澤さんは著書『現代経済学』の中で、コーポレート・ガバナンスを扱っています。コーポレート・ガバナンスとは、株式会社の統治ということですね。
アメリカ流のコーポレート・ガバナンス論は、経営者は株主の代理人(エージェント)だという「プリンシパル・エージェント理論」に基づいています。したがって経営者は、株主の代理人として株主価値を最大化するよう行動することが求められるわけです。
この理論は、瀧澤さんが書いておられるように、経営者の報酬のあり方に大きな影響を与えることになりました。具体的には、業績連動による報酬、さらに業績と連動したストックオプション型の報酬になっていくんですね。しかし、その行きすぎから、経営者報酬の異常な高騰や企業の不正会計のスキャンダルが起きてしまった。
そういった問題があるにもかかわらず、日本の金融庁は、日本も第三者による監視を強めなければならないから、社外取締役を何名以上入れろとか、業績連動の報酬の割合を定めろといったことを法制化しつつあります。これが制度の怖いところです。ある制度が何らかの事情で強力に推進されてしまうと、社会に大きな影響をもたらす危険性がある。
瀧澤さんは、こうしたコーポレート・ガバナンス論についてどのようにお考えですか。
瀧澤 弘和(以下、瀧澤):一般的には、日本には日本流のコーポレート・ガバナンスがあって、1990年代以降になると急速にアングロサクソン的なガバナンスに移ってきたと言われています。しかし、実際のところ、そんな簡単に移行してはいない、というのも現場にいる人はみなわかっているでしょう。