「農業は儲からない」という説の大いなる誤解 市場縮んでも新規参入にこそチャンスはある
商業、工業、サービス業も、農業と同様、下に"業"が付いていますが、それぞれ、どんな産業かと聞かれたら、「商業は右から左にモノを動かすこと(商い)によってお金儲けをしている業」「工業は原材料を加工し、製品として付加価値を付けることでお金を儲けている業」そして「サービス業は物品ではなくサービスを提供することでお金を儲けている業」だと答えるでしょう。
それに対して「農業は?」と聞かれると、多くの人は「農業とは、人に有用な植物を栽培、あるいは有用な動物を飼養することだ」と答えるところで止まってしまいます。なにが言いたいかというと、「農業は生産物を売買するところまで含めたビジネスだ」と考えている人は、まだまだ少ないということです。
人はお金を得るための経済活動を"業"と呼んでいますが、農業もビジネスであるという点では、ほかの業とまったく同じなのです。
新しい「栽培方法」「販売方法」と「仕組み」
熊本県玉名郡で「にしだ果樹園」を経営する西田淳一さんは、元・富士通のビジネスマン。果樹農家に転身した西田さんの栽培法は、とてもユニークです。
西田さんは農家の息子として生まれたにもかかわらず、農業よりスポーツに没頭して実業団の陸上選手として活躍していましたが、2000年に家族の都合で農業を始めました。しかし、それと同時に、父が行う農園とは別に「にしだ果樹園」という会社をつくり、独自の多品種果樹栽培に挑んでいます。
その独特の栽培法が「月読み栽培」というもの。この栽培法では、園内の草刈り、枝の剪定、果実の収穫のタイミングなど、栽培管理を月の満ち欠けを基準に行います。植物の生態と月暦を活用して、果実本来の魅力を引き出す手法です。
また、「果樹園にあるもの(落ち葉や雑草など)は持ち出さず、外部のもの(肥料や農薬など)は持ち込まず、園内にある環境のみで果実を育てる」というナチュラルな生産スタイルをとるなど、つねに、実際にこの果実を口にしてもらうお客様目線で栽培にあたっています。
西田さんのユニークさは、栽培方法だけではありません。果実が育ったストーリーを直接消費者に届ける「ダイレクト販売」を行っているのも特徴的です。SNSなどを通じて、生産者の思いや果実栽培状況、生育状況などの情報を発信し、果樹園に実際に足を運んでいただいて、園の雰囲気を感じてもらったり、果実の収穫を通して自然や農業の厳しさにも触れてもらったりと、お客様との触れ合いやコミュニケーションを重視した農業を行っています。
福岡県福岡市には「有限会社むらおか」という会社があります。直営農場のほか、全国各地の有機農場で生産された農作物の卸・販売を行っている会社です。
社長の村岡廸男さんは、もともとは食品流通業界にいた人です。彼は、たとえば「オーガニックのカボチャを100ケースください」というオーダーが入ってくるたびに、生産者のところに仕入れに行っては、お客さんの要望に応えていました。
しかし、オーガニック野菜の人気が高まるにつれて、時として注文に応じられないケースが増えてきたのです。「100ケース欲しい」と言われても50ケースしか確保できなければ、もう"商い"になりません。そこで考えました。「それなら九州の有機野菜農家を結び付けよう」と。
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