日本の新卒採用が解決できてない3つの難題 就活ルール見直し、経団連の真意はここに

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一方で“中問題”の就活ルールのあり方については、2021年春入社組は政府がルール作りを主導したが、その後のルールの決め方が固まったわけではない。仮に政府が介入を続けても、形骸化し、就活時期が”完全自由化”され、結果として採用時期がバラバラになる可能性もある。さらに完全自由化されたとしても、自然と採用時期がある時期に収斂していく可能性も考えられる。

楽天本社で開かれた「みん就フォーラムin東京」(撮影:尾形 文繁)

では残る“大問題”はどうなるか。中西会長の真の狙いはここにある、との見方も根強い。日本型雇用は職務や勤務地などが限定されない「無限定社員」であることが特徴。採用した社員の仕事内容や勤務地などは企業が決める。いわば、「誰が何をやるか」までを企業が決めるスタイルだ。これはまっさらな新卒学生を一括採用するスタイルとも合致し、日本独特の雇用慣習として根付いてきた。

一方のジョブ型は、社員によって職務が定められているのが特徴。企業は「誰が」やるかは決めるが、その仕事内容はその人自身が決める。その結果、日本型のような柔軟な配置転換は難しい一方、個々人に自律が求められ、キャリア意識が根付きやすいともいえる。日本企業はそのどちらに進むのかの選択を迫られている。

企業が個人のキャリアを面倒見る時代ではない

この“大問題”については、「もう個人のキャリアを企業が面倒を見る時代ではない。個人も企業も意識を変えるべきだ」(大手メーカー人事担当者)などの声が上がる一方、「能力のある人もない人も『新卒』というシールを張って社会に出ることができる効果は大きい。そのためにも新卒一括採用は重要」(大学関係者)といった声も残る。

リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長は、日本型雇用から欧米のジョブ型への移行には、早期からのキャリア意識の養成など「教育や進学のあり方から変える必要がある」と指摘する。「日本型雇用の見直しという方向性に異論が少なくても、教育の仕組みなどの整備が不可欠。急にハンドルを切るときしみが生じる」(大久保氏)。

仮に新卒一括採用のあり方から見直される状況になれば、採用手法も既存の必勝パターンでは通じなくなる。「横並びのルールがなくなると、個別企業の“採用力”がより問われる時代になる」と、ビジネスリサーチラボの伊達洋駆代表は語る。

企業が“採用力”を高めるには、まずは雇用をめぐる環境がどのように変化していくか、その流れを見極める必要があろう。そこを見誤ると“採用クライシス”に陥りかねない。

『週刊東洋経済』10月27日号(10月22日発売)の特集は「採用クライシス」です。
許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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