鎌倉の宿の主人が「鎧」を着て接客をするワケ 福祉ではなく多様な雇用創出で障害者支援

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「彩 鎌倉」トイレ・シャワールーム。シャワーの高さは車いすに合わせている(筆者撮影)

「面白そうな宿だから一度見てみたいという気持ちで予約するお客様も多いと思います。それが実際に訪れてみると、多様なスタッフがチャレンジしている姿が悪くないという評価になり、さらに応援しようという気持ちになってリピートしてくださるお客様もいらっしゃいます」(高野さん)

多様なスタッフの中には、障害者だけでなく普段は医療・福祉の現場で働く人もいる。理学療法士の桐山裕子さんにゲストハウスに働きに来る理由を尋ねると、「医療の現場だと、介護保険の関係などでやってよいことの範囲が決まっており、歯がゆく感じることが多々あります。お客様の希望にダイレクトに寄り添うことができるのが、このゲストハウスを手伝いに来ている理由です」と話してくれた。「彩 鎌倉」を運営するうえでは、こうした専門職の技能・ノウハウによる支えも大きい。

一方で、気を使わなければならないことも多い。たとえば「パーソナルスペース」という概念が薄く、ほかのスタッフとの距離感がつかみづらい人がいる。そのため、その人がシフトに入るときには、ソーシャルスキルトレーニングができる養護学校の先生に一緒に来てもらうなどの対応をしている。また、今まで「福祉」という枠の中で、受け身で守られていた人がゲストハウスで働き出すと、能動的な対応が求められることでストレスを感じることがある。そういったケースに備えて、家族や医師とのコミュニケーションを密にするようにしている。

ユニバーサルツアーを企画

最後に、高野さんに鎧を着続けている理由を聞いた。「僕のモットーは、『KEEP Different(違い続ける)』です。日本社会は他人と違う生き方がしづらいですが、違い続ければ多様性の中に本当の自分が見つけられる気がします」とにこやかな笑みを浮かべた。

高野さんは、今はゲストハウスの運営をしているが、今後はほかのサービスも立ち上げ、一人でも多くの障害者に「こういう働く場所があるよ」「こういう働き方もできるよ」と提案していきたいという。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の呼びかけで10月14日に開催された「神経難病患者と一緒に鎌倉に行こうプロジェクト」に高野さんも実行委員として参加。鎌倉の道路は舗装状態が悪く、ユニバーサルツアーの課題になりそうだ(筆者撮影)

その第一歩として、来年2月末からは障害者や高齢者も安心して楽しめる鎌倉のユニバーサルツアー「鎌倉武士が案内する鎌倉ガイド」を販売開始する予定だ。同ツアーは観光庁が「ユニバーサルツーリズム」を促進するために行っている実証事業に全国の他の5団体とともに選ばれ、すでに数回モニターツアーも実施している。将来的には、障害のある人たちにもツアーを主導するような形で携わってほしいと考えている。

森川 天喜 旅行・鉄道作家、ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など

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