「メイド・イン・ジャパン神話」の理想と現実 国産シャツからベトナム縫製に転換した背景

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理想のシャツを作るためにオリジナルのパターン(シャツの設計図)を持ち込みたいと筆者が依頼したところ、作業工程が異なるから難しい。機械に頼った画一的な刺繍でなく温もりを感じられる手刺繍を実現したいといってもミシン以外の作業はできないのが実情のようです。

また、効率的にするために新たな仕組みの導入や、システムの連携を図ろうとしても現場は年配の方が多く、いまだにFAXでのやりとりが主流です。

オーダーメイドシャツの生産工場としては、一定のクオリティを納期どおりに提供するためのこれまでの仕組みはすばらしいことは事実。

その反面、オリジナリティあるものづくりをすることは難しく、多店舗展開している販売店のオーダーメイドシャツは、ブランド名を除けば同じ工場で同じように作られた、どこも似たような製品に陥りがちです。

ルールが多く、画一的で融通のきかない生産体制
ミシン以外の技術力
タグと価格だけが異なるシャツへの違和感

これらの現状に違和感を覚え、「メイド・イン・ジャパン」ではない形でのシャツ生産を模索しました。

ベトナム製を担うのはほとんどが若い女性

ベトナム・ハノイ郊外、あるオーダーメイドシャツ専用の工場があります。室内は白が基調の、パターンなど指示書が壁に並び、整理整頓が行き届いた空間ではベトナム人技術者が作業しています。

そのほとんどは若い女性です。一心不乱にシャツを縫っている様は、工場というよりまるで絵を描く大きなアトリエのような雰囲気。筆者がこのベトナムの工場と一緒にシャツを作っていく決断をしたのは2016年です。

ベトナムの工場の縫製技術は非常に高いものがあった(筆者撮影)

オーダーメイドシャツの販売価格は5000円からで、一般的な綿100%オーダーメイドシャツの価格と比べて半額程度。

日本国内工場とは変わらないクオリティを実現するための品質は妥協していません。

たとえば、「運針」と呼ばれる縫い目の細かさは、大手アパレルが販売している約8000円の一般的なオーダーメイドシャツが、3センチ以内に16カ所しか縫い目をつけていないのに対し、このベトナムでの生産工場ではオーダーメイドにもかかわらず21カ所も縫い目をつけています。

細かければ細かいほどエレガントさを演出できる分、よれやすくなり、まっすぐ縫いにくくなります。同水準の商品を国産品に求めると、大手百貨店が販売する1万5000円~1万6000円程度のブランドに匹敵します。

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