働かされすぎた人が「自殺」を選ぶ本当の理屈 長時間労働がトリガーとなり段階的に進む

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

1995年、川人弁護士の古くからの友人が突然失踪。3カ月後に自殺体となって発見されました。その後の調べで、友人の職場では同時期に3名もの男性社員が自殺していたことがわかり、これをきっかけに川人弁護士は「過労自殺」が疑われる事案に本格的に取り組むようになったそうです。

過労自殺をいろいろと調べていくと、「長時間労働、休日労働、深夜労働」などの過重労働による肉体的負荷に加え、納期の切迫やトラブルの発生などからくる精神的なストレスがかかっていたことが判明。

そこで川人弁護士は、

「仕事による過労・ストレスが原因となって自殺に至ること」

を過労自殺と定義し、過労自殺の多くは、うつ病などの精神障害に陥った末の自殺であるとしたのです。

また、過労自殺した人が残す遺書には、必ずといっていいほど謝罪の言葉が残されていると、川人弁護士は指摘します。

「もう何もやる気の出ない状況です。会社の人々には大変な心配、迷惑をかけている」

「すいません。何も感じない人だったら、このようなことはしなかったと思います」

「なさけないけどもうダメだ。ごめんなさい」

etc……。

彼らを苦しめているのは“職場”なのに。なんと悲しい言葉なのでしょう。

1996年3月には、高橋まつりさんと同じ電通の男性社員(24歳)が自殺しました。それが仕事の過労によるものと認められたことをきっかけに、“過労死110番”に自殺相談が相次いだため、97年10月18日に“過労自殺110番”を設置したところ、1日だけで146件も相談が殺到します。

それまでのストレス研究が、

・職場の心理社会的要因や長時間労働とストレス症状の関係(心臓疾患、脳疾患、精神障害)

・精神障害と自殺との関係

と分けていたのを、川人弁護士は「過労」という言葉で職場と自殺を結び付けました。

長時間労働が直接「過労自殺」を生み出すわけではない

長時間労働は過労自殺の引き金になります。ただ、それ以外の要因、精神を病むようなストレスの影響が大きいので「長時間労働だけ」を規制しても過労自殺の撲滅にはつながりません。

過労自殺する人の多くはうつ傾向やうつ病などの精神障害を発症しているとされていますが、長時間労働と精神障害との直接的な関係は「ない」とする研究結果も、少なくありません(量的調査による統計的な分析)。ただし、“overwork ”、すなわち「自分の能力的、精神的許容量を超えた業務がある」という自覚と精神障害との関係性は多数報告されています(藤野善久ほか「労働時間と精神的負担との関連についての体系的文献レビュー」)。

そして、overwork には、実際の「長時間労働」が影響を与えることがわかっています。

次ページ長時間労働は「過労自殺」のトリガーになる
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事