トヨタ「世紀の提携」の先に抱える大きな難題 次世代のカギ「MaaS」に販社をどう組み込むか

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メーカーによっては自社資本による販売会社の比率が高い場合がある。たとえば、SUBARUやマツダの日本国内の直営率は8割前後。ただ、トヨタは1割程度と低い。こうした自動車メーカーによる直営率の差はあっても、自動車メーカーと顧客が直接つながっているような情報管理システムはこれまで、どの自動車メーカーも採用してこなかった。

これが、「製販分離」という自動車業界の実情である。

こうした状況を、MaaSというひと言で一気に解決することは事実上、無理だと思う。

MaaSの議論は、人工知能による完全自動運転など、先進技術を中心に行われることが多い。だが、MaaSというサービスを実行するためには、自動車メーカーと自動車ディーラーの間など、「人と人との関係」の中で乗り越えなければならない大きな壁が存在する。

「地元の名士」トヨタ系ディーラーの協力が不可欠

10月4日に東京・大手町のパレスホテルで開かれたトヨタとソフトバンクの共同記者会見。トヨタの豊田章男社長は次のように語った。

「車は売ったら終わりではなく、売ってから始まるビジネス。トヨタはレンタカーも含めて、日本に6000の拠点がある。リアルの世界で築き上げてきたお客様との信頼関係がある。それに裏打ちされたネットワークこそが、私たちのアドバンテージになる」

トヨタは日本国内でビジネスを展開していく当初から、「地元の名士」と呼ばれる独立資本の優良企業とのネットワークを形成してきた。トヨタ系の販売会社はメーカーであるトヨタにモノ申せる存在であり、資本構造をはじめとする力関係などからメーカーの言いなりになりやすい他社の販売・サービス網とは違う。

トヨタとトヨタ系ディーラー。この間にある緊張感こそが、日本国内で圧倒的な強さを誇る販売力を培ってきた。両社、あるいは両者が目的や理想に沿って一体となり、自動車というハードを売っていくにとどまらず、カーシェアリング、ライドシェアリングや、自動運転技術を軸に派生するさまざまなサービスなどを広げていくことが必要になる。

メーカーであるトヨタや、その旗振り役である豊田社長がいかに理想を掲げようとも、トヨタ系ディーラーにそれを理解してもらい、そのうえで多大な協力を得られなければ、それは実現しない。その意味でトヨタにとって販売網の再編は、現実的に大きな課題となるのだ。

今後、MaaS実現について、まずはスタートを切ったトヨタグループを軸に、現実解を念頭においた議論が自動車業界内で活発化することを期待したい。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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