会社内差別を生む「無意識バイアス」の正体 脳による「パターン認識」が壁だった

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ダイバーシティ推進は、正攻法だけでは成功しない。マネジメントや当事者が抱える無意識バイアスに切り込む施策が必要だ――。佐々木社長がそう考えていた頃、藤原智子・チェンジウェーブ副社長は顧客企業が「無意識バイアスの研修」をしていることに気づいた。

チェンジウェーブの佐々木裕子社長(撮影:梅谷秀司)

直接的な性差別はしていなくても、心の奥底に根付いた男女役割イメージが強いと、バイアスに基づいたマネジメントをしてしまう。また、本人が仕事より女性役割を果たしたい、と無意識で思っていることもある。

差別はいけない、という認識がダイバーシティ1.0、無意識バイアスの存在を知ることが2.0とするなら「ダイバーシティ3.0」を目指す企業のための教育ツールを作りたい。佐々木社長と藤原副社長の体験と思いから生まれたのが、管理職向けe-learningツール「ANGLE」だった。ダイバーシティの重要性を頭でわかっているマネジメントが、日常業務や部下の育成で、それを実践するための気づきを与える。

重要なのは「無意識バイアスは誰にでもある」ことを前提に、このe-learningが作られていることだ。

男性と仕事、女性と育児を結び付ける「パターン認識」

「人間は大量の情報を一瞬で処理するため、パターン認識をしています。これは、脳のショートカット機能であり、情報処理を素早くするための工夫でもある。その一類型が、性別と特定のキーワードや領域を結び付けて考えることです」(佐々木社長)

「パターン認識」をもとに、冒頭に挙げた「1歳の子どもを持つ部下に海外出張を打診するか」という質問を再度考えてみよう。部下が男性の場合は「男性」と「仕事」を結び付けるパターン認識により、迷いなく「海外出張を打診する」と答える人が多い。一方、部下が女性の場合「1歳の子どもがいる」つまり「育児」と「女性」を結び付けるパターン認識により、海外出張を打診さえしないこともある。

出所)ANGLE~無意識バイアス編

5月から620名の管理職によるANGLE受講データを分析すると「1歳の子どもがいる社員に海外出張を打診しますか?」という質問に対して、その社員が女性の場合、YESは36%だが、男性の場合70%と差が開いた。NOは女性の場合21%、男性の場合11%。「迷う」という回答は女性で42%、男性で19%となった。

こうしたデータからは、同じ子育て中の社員を見た場合、男女で出張機会に差がつくことがわかる。日常業務の積み重ねは成果や業績にも響いてくるだろう。振り返ると、筆者の場合、子どもが1歳くらいのときも部署の上司から「今度、●●(ロンドン、シンガポール等)に行ける?」という打診を普通にされていた。行けるときは行き、行けないときは断って同僚に代わってもらった。上司は男性、女性両方を経験しているが、どちらもこうしたバイアスはなかったか、上手にコントロールしていたから筆者は出産後も会社勤めを続けられたのだと思う。

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