淡い予感が確信に変わったのは、彼女が自身のツイッターアイコンを、亡くなった大姑の写真にしていると知ったときだった。大姑というのはつまり、夫の祖母。Iが嫁いだ当初、家には旦那さんのほかにこの大姑と、舅と、姑が住んでいたのだ。大姑はすでに亡くなってしまったが、舅と姑とは引き続き同居中だ。
アイコンをよくよく見てみると、写真の中でにっこりほほ笑むおばあちゃんは、頭に白いベールのようなものを被っている。これについて尋ねたところ、Iは突然、吹き出しながら言った。
「おばあちゃんね、あたしのウエディングドレスを着てるのよ。結婚前に、仕立て上がったばっかりのドレスを見たらどーしても着たくなっちゃったみたいね。大姑があたしより先にあたしのウエディングドレスに袖を通しちゃったのよ。奥さん、そんなことって普通ある? ないやん? そのときの写真よね、ハハハ」
なるほど、状況はわかった。しかしなぜそんな写真をアイコンにしているかについては、結局わからなかった。ただ、話しながらIは終始お腹を抱えて笑い続けたので、聞いているほうの私もまた、よくわからないままつられて笑った。ウエディングドレスを着て満足気にほほ笑む、会ったこともないおばあちゃんを思いながら。
お通夜にフライドチキン
ある日の昼下がり、わが家にIとその子どもたちが遊びにきていた。しばらくすると誰ともなくお腹が空いたと言い出したので、フライドチキンを頼もうということになった。最近はファストフードさえ出前してくれるアプリがあるのだ。
注文してから20分ほどで到着したチキンを子どもたちと競うように食べていると、Iがふいに思い出したように話しだした。
「フライドチキンと言えば、やっぱりうちの大姑よ。あの世代の人だけど、フライドチキンが大好物だったのよね。それで、亡くなったときのお通夜にもフライドチキンをだしたの」
「え、お通夜にフライドチキンなんてありなの?」
「葬儀屋のおじさんが、故人の好きなものを出すのがいいですよって言うからさあ。でもフライドチキンだけじゃさすがにどうかって姑が言うから……」
「どうしたの?」
「ピザを取ったのよ! お坊さんなんかもうびっくりしちゃって。“ほう、こういうのも悪くないですね”なんて言ってた。ハハハ」
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