さらに言えば、経常収支の黒字がある間は日本国内では貯蓄が投資を上回っているのだから、長期金利の上昇は起きない、といえるのだろうか。
政府・日銀による為替介入がなければ、経常収支の黒字とは日本から資本が流出していることを意味している。これは、経常収支と資本収支の合計が必ずゼロになるからで、経常収支が赤字にならなければ資本収支は黒字(海外から資金流入)にはならない。このため、経常収支の黒字がある間は財政赤字のファイナンスには問題が生じないように見える。
海外で得た所得の多くは現地で再投資される
しかし現実はもう少し話が複雑だ。日本の国際収支においては、経常収支の黒字のうち、海外で得た所得がそのまま海外で再投資されている「再投資収益」がかなりの額にのぼるからだ。
海外不動産の取得や海外子会社の設立などの直接投資に関連して、投資先企業の未処分利益の増加は、日本企業の出資割合に応じて再投資収益として所得収支の一部に計上される。所得収支に計上されていても、再投資収益は実際には日本国内に流入しているわけではない。そのため、同時に資本収支の直接投資に同額の赤字(資本の流出)として計上されている。
つまり、直接投資の未処分利益の増加分は、統計ではいったん直接投資収益として受け取り、同額を追加的に直接投資したとして扱っている。一度投資家が利益を手に入れ、その利益をそのまま再度投資をしたとみなすことになるので、再投資収益と呼ばれる(国際収支統計で再投資収益が計上されているのは、1996年1月分からである)。
再投資収益は所得収支の受け取りとして経常収支の黒字に記録されるが、同時に、同額の資本収支の赤字としても記録される。計算上の経常収支の黒字であり、財政赤字を賄うことには使えないお金なのだ。
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