日本の財政、残された時間的余裕は少ない 「経常黒字だから大丈夫」は危険

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日本の直接投資残高は増加を続けていて2012年末で89.8兆円にも達しており、再投資収益は拡大している。2008年に起きたリーマン・ショックによる世界経済の悪化で、2009、2010年の再投資収益は大きく落ち込んだが、その後かなりの回復を見せ、2012年は2.1兆円の受け取り、1.9兆円の黒字となっている。

2012年の日本の経常収支黒字は4.8兆円だから、再投資収益の黒字はその半分近くに当たる規模だ。自動的に流出してしまう再投資収益を差し引くと、財政赤字を賄う資金の余力は、統計に表れる経常収支の黒字よりもかなり少ないことがわかる。

「経常収支が黒字のうちは大丈夫」という考えは危険

日本の経常収支の黒字は東日本大震災後の原子力発電停止の影響もあって大きく減少しているが、高齢化が進むことで黒字の縮小傾向が続き、いずれ赤字化する可能性が高い。さらに本稿で述べたように、経常収支が赤字になるかなり前から大幅な財政赤字のファイナンスに海外からの資金流入が必要になる可能性が高い。財政赤字を大幅に縮小するために我々に残された時間的余裕は、一般に考えられているよりもはるかに少ない。

経常収支が黒字の間は国内の資金で財政赤字が賄われているので財政赤字が大きくても問題が起きない、と楽観することは危険ではないか。いつの間にか危険水準を超えており、気が付いたときには大変な事態になっているという恐れが大きいのだ。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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