厳密に言えば、2012年の党員票は各都道府県の「持ち票」を取り合う方式で、アメリカ大統領選挙における選挙人制度みたいであった。それが制度変更となり、今年の党員票は全国を集計した票数をドント式で割り振っている。両者を比較するのは、本当は変なのである。それでも、こういう「意味深」な数字が浮かぶところが長年の伝統というもので、自民党総裁選は今回も独特のバランス感覚を発揮したと言えるだろう。
こうなると、事前に言われていたように「石破派を人事で干してやる」というのも難しくなる。なにより党員の45%が「反安倍」であったという事実は重い。議員票も、当初の予想より20票程度、石破陣営に上乗せがあった。どうやら当日になって小泉進次郎議員が「石破支持宣言」をしたところ、それに釣られて迷っていた票が動いた模様。これでは安倍さんとしても、しばし党内への「気兼ね」が必要になる。
低姿勢の「弱い安倍首相」はマーケットにはプラス
差しあたってのポイントは、近いうちの憲法改正のシナリオは消えたということだろう。以前は「3選後の安倍首相は、この秋の臨時国会で改憲案の発議を目指す」との声もあった。しかし自民党員の反応がこの程度なのでは、せっかく衆参3分の2の同意を得て改正を発議したところで、国民投票で否決されてしまいかねない。
改憲を発議した場合、法律では「60日以降180日以内」の国民投票を求めている。仮にこの秋の臨時国会で議論を始めて、年末くらいに発議ができたとして、それから「2カ月以降、半年以内」のどこかで国民投票を実施しなければいけない。しかし来年は4月に統一地方選挙、5月に改元、6月に大阪G20サミット、7月に参議院選挙という重い日程がずらりと並んでいる。10月には消費増税という難関も控えている。いったいいつ、どういうタイミングで国民投票を実施すればいいのだろう?
そうこうするうちに、7月の参院選で与党が大敗すれば、「衆参で3分の2」という発議の要件を失ってしまうかもしれない。その場合、石破氏を中心に党内で「安倍降ろし」の声が高まるのではないか。3選後の安倍首相は、当面は低姿勢で行かねばならないだろう。
過去5年9か月の安倍首相は、支持率が上がるとタカ派になって憲法や安全保障政策に突き進み、支持率が下がると低姿勢になって経済政策に重きを置いてきた。ゆえにマーケット的視点からは、弱い安倍首相の方が歓迎ということになる。「安倍さんが勝ち過ぎない3選」という今回の自民党総裁選は、日本経済にとってグッドニュースだったというのが筆者の見立てである。
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