夢の田舎暮らしにつきまとう「耳を疑う」現実 ムラ意識の強く残る地方で嫌われない条件

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そこで、著者がいう「移住前、移住後に徹底すべき鉄則」のなかから、いくつかをご紹介したい。

集落移住ならば、まずは“借住”で

たとえば具体的な話に関し、印象的なことがある。集落移住をするなら、飛び込み購入ではなく、まずは“借住”にすべきだという著者の主張だ。

最近の移住ブームもあり、集落としても移住組の受け入れは問題ないとしている場所も少なくない。それどころか、役所と住民とで、表向きは諸手を挙げて大歓迎のポーズを取っているところも多いという。

だが、この点に関しては、著者があえて「表向きは」というフレーズを加えていることに注目しなくてはならない。「都会の感覚が通用しないのが集落での生活だから」というのがその理由だ。

集落は、極めて相互監視の強い場所である。家の出入りから日常の暮らしぶりまで、すべてが筒抜けになる。集落に永住用の土地や家屋を購入して成功できる人間は、もともとその土地に地縁血縁のある者か、出身者であると考えたほうがいい。
最近ではIターン、Uターンの出身者でさえ、都会の感覚に馴れてしまい、集落では大きなトラブルを生みつつある。そうした地縁血縁のある者でさえ住みづらいと感じる文化のただなかに、突然、土地や建物を購入したり新築したりして、その後も、私は私、と素知らぬ顔で死ぬまで暮らしていけるとは思わないほうがいい。(239ページより)

なかには、「濃密な人間関係や、強い互助意識のなかにこそ身を置きたい」と考える移住希望者もいるかもしれない。それが素晴らしい考え方であることは、著者も認めている。しかしそれでも、そこを「離れたい」と思ったとき、気軽に離れられる最後の安全弁は確保しておいたほうがいいというのだ。

なぜなら、なにをきっかけに集落内で孤立し、人間関係の軋轢に悩まされることになるかわからないから。極論を言えば、集落にいる限り、「自分がいつ村八分になるかわからない」という覚悟が必要だということだ。

つまり、そうした状況下における安全弁が、いつでもその場を離れることのできる「賃貸移住」だということ。その点、賃貸ならば、なにかが起こって「ここを離れたい」となった場合に楽だというわけである。

なお賃貸に関していうと、著者は経験則から、市営や村営などの公営住宅がお勧めだとしている。都市圏とは違って、持ち家や戸建て住居比率が高いのが地方。そのため公営住宅の場合は、「順番待ち」「抽選次第」といったこともほとんどないというのだ。

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