「忘れられた国際条約」が果たした大きな役割 「旧世界秩序」は「新世界秩序」に転じた

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ルール形成者(rule shapers)は、パワーよりむしろ影響力を発揮する形のリーダーシップをイメージさせる言葉である。

この日本への呼びかけは、日本・EU経済連携協定(EPA)を合意したことが1つの契機となっている。日本は受けて立つべきである。日独というグローバル・シビリアン・パワーが力を合わせて、そのようなリーダーシップのあり方を探求するまたとない機会ととらえるべきである。

トランプのアメリカに欠けているもの

ただ、それでも最後は、rule makersのリーダーシップがモノを言う。

アメリカのリーダーシップは戻ってくるだろうか。

日独、さらにはG7マイナス1の集団的rule shapers――いずれもアメリカの同盟国――は、アメリカのリーダーシップを蘇生させることができるだろうか。

E.H.カーは、「どのような道徳的秩序もパワーのヘゲモニーに基を置かなければならない。それを持続させるには、ギブ・アンド・テークと覇権国の自己犠牲の要素を含まなければならない」との国際秩序観を述べている。

トランプのアメリカに欠けているのは、まさにこの「ギブ・アンド・テーク」と「自己犠牲」の要素にほかならない。

『逆転の大戦争史』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

著者は、ISISやロシア、そして中国の「新世界秩序」に対する挑戦に言及しつつ、「今、世界は、新世界秩序の最も重要な約束を放棄する寸前にある。本書が、何が危機に瀕しているのかを思い出す手掛かりになることを願っている」と記す。その危機感が、この本を書かせたのである。そして、「ルールは過去にも変ったのだから、わたしたちが過去の教訓を忘れたら、再び変更されうる」と警告を発する。アメリカはWTO(世界貿易機関)の取り決めに背馳するような貿易戦争を仕掛け、戦後、自ら構築してきた世界秩序を歪めつつある。ロシアはクリミア併合で中国は南シナ海で一方的な「ルールの変更」を他に強いている。

私も、この危機感を共有している。

この本を読みながらふと思ったことがある。

ロシアのクリミアと中国の南シナ海における違法な領土拡張とルール違反に対して、スティムソン・ドクトリンを適用しようではないか。

国際社会はそれらの事態や権益や法的立場を「不承認」し続ける。国連を初めとする国際機関は、この力による一方的な現状変更による「事態や条約や協定を一切承認しないこと」を、「義務」と見なす……。

夢想である。いや、夢想でしかないだろう。

世界秩序は結局のところ、終点のない永遠のプロジェクトと見なすべきものなのかもしれない。

重要なことは、そのプロジェクトにつねに参加し続けることである。

繰り返しになるが、世界秩序とルールをめぐる国際政治は、最高位のハイ・ポリティックスである。日本は、そこへの関与と存在感を確かにしなければならない。当事者意識を持ち、建設者として参画し、それを擁護し、進化させ、世界の平和と安定を追求すべきである。

日本は戦前、不戦条約の意味と意義を十分に理解せず、それに背を向けた。

日本に何よりも必要なのは、国際主義者である。

不戦条約の教訓を、私たちは忘れてはならない。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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