カイゼン経営が途上国の発展に寄与するワケ ベトナムとタンザニアで明らかになったこと

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ここで重要となるのが、因果関係と相関関係の区別である。たとえば、経営者が過去に経営トレーニングに参加した経験があり、平均的な企業よりも高い業績をあげていることが観察されたとする。つまり、経営トレーニングの経験と業績との間に、相関関係が観察されたとする。

だが、こうした観察データをもって、「トレーニングが業績の向上に効果があった」と結論づけられない。なぜなら、トレーニングに参加するような経営者はそもそも能力が高く、トレーニングを受けずとも、高い業績をあげられる可能性があるためである。

こうした経営者が「トレーニングを受けていなかった場合に業績がどうなっているか」という反事実を考慮しなければ、トレーニングと業績の間の因果関係を特定することはできないのである[7]。

果たして、ベトナムとタンザニアでの社会実験の結果はどうなったか。

いずれの調査地においても、研修を受けたグループの経営者の経営が統計的にみてもよくなった[8]。カイゼンが導入されて作業場内や倉庫が整理整頓されたことで、生産過程における無駄が減り、作業効率が向上した。また、買いすぎ・作りすぎといった無駄の削減にもつながった。

ベトナムではトレーニングの2年後に、タンザニアでは3年後に追跡調査を行った。その結果、研修から時間が経ってもなお、研修を受けたグループの経営者はそうでない経営者と比較して「よい経営」をしていることが明らかとなった。

研修に参加した企業の業績が向上

さらには、ベトナムとタンザニアにおいて、研修に参加した企業の売り上げや利益といった業績が向上したことも発見された。これは、設備投資や新規雇用により生産能力が拡大したこと、自信をつけた経営者がより積極的にマーケティングを行うようになった、といったことの結果であると考えられる。

今回の執筆者:樋口裕城(ひぐち ゆうき)/名古屋市立大学経済学部准教授。2009年、京都大学文学部(社会学専修)卒業。2014年、政策研究大学院大学より博士号を取得(Ph.D)。2015年、名古屋市立大学講師に就任し、2018年より現職。専門は途上国の経済を分析する「開発経済学」(写真:樋口裕城)

本研究によって、アジアの新興国であるベトナムにおいても、アフリカの中堅国であるタンザニアにおいてもカイゼン経営研修の効果が見られた。それは、途上国の中小零細企業は経営がなっていないものの、日本発のカイゼン経営を教えることによって成長していける可能性があることを示唆している。

途上国を支援する国際協力機構(JICA)は、とくにアフリカにおいてカイゼンを普及しようとしている。その戦略を支持する根拠が、本研究にある。日本発のカイゼン式経営は、途上国の発展に貢献する大きな可能性を秘めていると言えるだろう。

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