首都圏「私鉄通勤ライナー」群雄割拠の時代に 運賃、座席、乗り比べてわかった各社の戦略

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「S-train」と「拝島ライナー」は、似た者同士だが利用状況は異なり、その理由は以上の中から察せられる。

『鉄道ジャーナル』11月号(9月21日発売)。特集は「グリーン車半世紀」(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

同様の差異は、小田急ロマンスカーにも見た。夕方以降「ホームウェイ」と名乗る通勤特急は新宿発が軒並み満席なのに、東京メトロ千代田線の大手町から発車(平日は18時30分から毎時1本、計5本。1本のみ北千住発)する「メトロホームウェイ」は、やはり通路側席に空きがある。

車内環境も群を抜くロマンスカーで新宿~相模大野間の410円はリーズナブルに思えるが、東京メトロと合わせての620円になると途端に変わってくる。東武の伊勢崎・日光線特急は夕夜間の通勤圏では310円と510円、京成スカイライナーも「モーニングライナー」「イブニングライナー」と名を変える時間帯は410円であり、通勤の懐が許す相場がありそうだ。JRのグリーン料金770円での盛況は、やや異質だが。

TJライナーは速達列車の力量を発揮

10年を迎えた「TJライナー」はどうか。平日は18時から深夜0時まで30分間隔で13本、土休日は17時から21時まで9本の運転で、平日のラスト2本を除いて小川町行き。「京急ウィング」同様、平日朝には上り2本もある。

東武東上線に誕生して10周年を迎えた「TJライナー」(撮影:久保田 敦)

池袋駅終端方の券売機で券を求めると310円で、小さい券に「着席整理券」とあり、後ろ5両と指定された。前方の階段側は前5両と指定される。これは以前の「京急ウィング」と同様である。いまはチケットレスの「東武携帯ネット会員サービス」が加わった。乗車ホームは通常、降車に使う5番線で、「TJライナー」の入線時は入口に係員が立ち、スキャナに券面のQRコードをかざして改札する。

ライナー用の50090系は10年前の車両のため造作はシンプルで、コンセントはない。中吊広告はなく、車内の色遣いも明るいグレーの単色、特段に凝った車両ではないが、そのため、かえってすっきりした空間と感じるのかもしれない。座席は向かい合わせることができる。発車時の放送の冒頭には特別に繊細なチャイムが鳴った。

急行停車駅の成増、和光市、朝霞台、志木を通過し、軽快さをコンスタントに保ち続け、ふじみ野に到着する。準急と接続してそこから一般列車となるが、停車駅は川越から各駅停車となる急行と異なり、ほぼ50km先の東松山まで急行運転を続ける。川越市で追い抜く急行から、乗り継ぎ客が移ってくる。東上線の通勤圏も奥が深いので、速達列車としての利用価値も高い。その面をしっかり打ち出しているのはTJライナーへの誘導策でもあるだろう。

一方、朝の上り2本は停車駅ごとに乗車する号車が割り振られて池袋へ向かい、整理券なしで乗車可能な区間はない。全区間にわたり「全員着席」が展開されるため、小川町~川越間各駅から池袋までの料金は410円で、ふじみ野乗車だけが夜の下りと同区間となるので310円である。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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