がんと闘う元UWF戦士が人々を魅了するワケ 垣原賢人さんが抱く「中年のおっさんの夢」

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「鳥肌が立ちましたね。やっぱりリングは最高だなと。ファンの声援は、抗がん剤よりも効く何よりの治療だと感じました。そういう意味でも、リングに上がり続けて、ファンからの治療を受け続けたいですね」

リングに上がり続けて、ファンからの治療を受け続けたい(撮影:大澤誠)
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垣原さんは2018年1月、古巣である新日本プロレスの、東京ドーム大会のリングにも登場。約3万5000人もの大観衆の前で、改めて復帰をアピールした。今年8月14日には、去年に続き自主興行も行った。メインイベントに登場した垣原さんは、UWF時代の先輩であり、トップレスラーの鈴木みのるさんと対戦。試合開始早々、掌底や蹴りで攻め立てたが、わずか1分50秒、チョークスリーパーで締め落とされ、レフェリーストップによる敗北となった。

興行全体について、垣原さんは「昨年より大会の内容がよかった、とのお声をたくさんいただき、前進できているという手応えを感じました」と満足そうに振り返る。しかし、自身の敗北については、「プレーヤーとしては、鈴木みのる選手にいいようにやられてしまったので課題が残りました」と唇をかむ。その姿は、闘病中であることなど関係なく、試合での負けを純粋に悔しがるファイターそのものだった。

同大会は、UWFの盟友であり、頚髄損傷という大ケガを負った高山善廣さんを支援する目的もあった。大会終了後は、元Uインター(UWFの解散後、派生して誕生したプロレス団体。垣原さんも所属していた)の選手やスタッフたちがリングに上がり、高山さんへ応援のメッセージを送った。最後にマイクを取った垣原さんも、「鈴木みのるに勝つまであきらめません! だから高山も回復してくれ。あきらめるな! 皆さんも高山を応援してください!」と熱く呼びかけた。

中年のおっさんが夢を持っていてもいい

プロレス以外にも、ミヤマ仮面として昆虫文化を世界に広げていきたい、という壮大な夢もあるのだそう。夢、という言葉に垣原さんは力を込める。

「僕は子どもの頃から、UWFの選手としてリングに上がるのが夢でした。あこがれだった高田延彦さんや、長州力選手と試合をするっていう夢もかなえることができた。夢があったからこそ、厳しい練習とか、困難に打ち勝つことができたんです。だからこれからも夢を持ち続け、何度も立ち上がって、一生かけてがんを克服していきたいです」

夢って、若者が持つものと思われがちですよね。でも、中年のおっさんが持っててもいいんじゃないかな。垣原さんはそう言ってほほ笑む。UWFに入りたいと思い続けていた少年の頃から、きっと何一つ変わらない笑顔で。

垣原さんはこれまで、数々の逆境を乗り越えてきた。小細工ではなく、ひたむきな思いだけを原動力に、道を切り開いてきた。その決断や行動は、ときに周囲をハラハラもさせたが、同時に感動も与えてきた。プロレスのリングでも、人生というリングでも、垣原さんは人々を魅了し続けていく。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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