「響-HIBIKI-」の天才少女は現実にあり得るか

芥川賞と直木賞の同時獲得が極めて難しい訳

戦前までさかのぼると、「従軍中の伍長」が芥川賞を取った、と騒がれた火野葦平がいる。「現役の大学生」石原慎太郎の受賞は、その後の芥川賞報道の様相を大きく変えるほどだった。兄の吉行淳之介が選考委員をしているときに芥川賞を取った妹の吉行理恵、白石一郎・一文による2世代にわたる直木賞受賞、同じ第114回でともに直木賞候補になった小池真理子・藤田宜永の夫婦など、「家族・血縁者」の話題もあれば、「女性2人」が同時に受賞したといって渡辺喜恵子・平岩弓枝(第41回直木賞)、永井路子・安西篤子(第52回直木賞)、郷静子・山本道子(第68回芥川賞)が脚光を浴びた時代もあった。とにかく作品よりも「人」が注目された報道例は、数限りない。

その代表的なひとつに、受賞者の年齢にスポットが当たる、というケースがある。

響は15歳で候補になった、という設定だが、10代で芥川賞の最終候補に選ばれた人は、これまで5人いる。久坂葉子(第23回)、坂上弘(第33回)、峰原緑子(第85回)、島本理生(第128回)、綿矢りさ(第130回)。みな19歳だった。そのうち受賞したのは綿矢のみで、これが現在のところ最年少受賞記録となっている。

予選の対象は、各社の純文芸誌に載った作品が基本となっている。それぞれの雑誌には誰でも応募できる新人賞があり、広く門戸が開かれているが、かつて「学生小説コンクール」を開催していた伝統からか、『文藝』誌の運営する文藝賞に、現役学生の受賞例が多く、堀田あけみは17歳、三並夏は15歳でデビューした。そう考えると、15歳で芥川賞の候補に選ばれるという話は、夢物語ではない。そのあたりのリアリティの持たせ方が、『響』の憎いところでもある。

直木賞の受賞平均年齢は“44歳”

一方、直木賞では10代が候補になったことはなく、最年少での候補および受賞は、大正6(1917)年生まれの堤千代が樹立した22歳、というのが定説だ。ただし、実際は明治44(1911)年生まれだった、という実妹による文章もあり(1991年・大屋絹子『オフェリアの薔薇』)、少し年長だった可能性がある。もしかすると最年少は、ぐっと現在に近く直木賞を取った朝井リョウ(候補・受賞ともに23歳)かもしれない。

いずれにせよ、直木賞の受賞平均年齢は約44歳。芥川賞の約37歳に比べて7歳ほど高い。響が15歳で候補になったとすれば、明らかに直木賞のほうが驚異的な出来事だ、と言えるだろう。

そして響と文学賞にまつわる最大のインパクトは、芥川賞と直木賞、1つの作品が2つの賞で同時に候補になった、という点だ。創設から80年以上の両賞のなかで、これと同様の例は、中村八朗「桑門の街」(第21回)、柴田錬三郎「デスマスク」(第25回)、相見とし子「魔法瓶」(第37回)、北川荘平「水の壁」(第39回)、この4つしかない。

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