愚かな成金国、日本のとるべき道とは? 大富豪の老人が、職探しをするようなもの

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硬直化した制度や意識こそ問題

高齢化率が高い経済においてストックの活用は不可欠だ。つまり、成熟した経済国としての行動が必要だ。ただ、そのためには、制度や意識を大きく変える必要がある。

ところが制度も意識も60年頃のままだ。フローを稼ぐのが必要という考えから脱却できず、ストックの活用という発想をしないのである。

その好例が、対外資産の運用である。現在の日本の対外資産(約662兆円)は、GDP(475兆円)をかなり超えている。したがって、仮に運用利回りを1%ポイント高めることができれば、GDP成長率を同率だけ高めた以上のことになるのだ。しかし、そうした発想をしない。

また、日本の財政は、高額の資産を放置して、若年層の賃金所得に負担を求めている。ストックを活用していないのだから、赤字が拡大するのは当然のことだ。

たとえて言えば、働けなくなったが巨額の資産を持っている老人が、資産を活用しようとせず、何とか働き口はないかと探しているようなものだ。

フローの面で新しいものを作り出す製造業だけが「実業」であり、すでに存在している資産やストックの活用は付加価値を生まないと考える。したがって、資産運用や金融活動は「虚業」だという発想から抜け出せない。

人口が高齢化した経済で、製造業や投資に成長の主役を求めるのは間違っている。五輪開催を利用して、高度成長期と同じような投資主導経済を実現しようというのは、アナクロニズム以外の何物でもない。こうしたことを夢見る人は図に示した大きな変化を認識していないのだ。

金融緩和で成長が可能になるというのは、幻想に過ぎない。改革を拒否しているだけのことだ。規制緩和の必要性は叫ばれるが、最も重要な規制緩和である移民の受け入れになると、断固拒否する。

すでに見たように、米英は人口構造上若い国である。これは、移民を積極的に受け入れているからだ。

仮にフロー重視、投資重視の成長戦略を取るのであれば、人口構造を若く保つために、移民の受け入れは不可避だ。それを拒否するのであれば、老人国型の戦略を取るしかない。移民を拒否しながら、若さを求めるのは間違っている。

いまの日本で最大の問題は、人々の考えが硬直化していることだ。考え方を世界で最も大きく変えなければならないのに、変わっていない。

「社会の進歩を妨げるのは、既得権というよりは、人々の古い考えだ」とは、ケインズの至言である。この言葉は、現在の日本にこそ向けられるべきものだろう。

本連載は、今回が最終回となります。

週刊東洋経済2013年11月16日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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