知之は、初デートをこう振り返った。
「夕方5時に待ち合わせて、まずは夕食を食べに行きました。そこから2件目に飲みに行って、気がついたら終電の時間になっていた。一緒にいると楽しくて、時間が経つのを忘れてしまった。お互い、食べるのが好き。飲むのが好き。仕事の話や家族の話や趣味の話など、もういろんなことを話しました」
翌週末も会ったのだが、そのときも夕方から終電まで一緒に過ごしたという。そして、次の週は、約束していたイチゴ狩りに出掛けた。
「レンタカーを借りてちょっと遠出をしました。その日は、イチゴ狩りから帰ってきてレンタカーを返し、2人で夕食を食べに行き、その後はカラオケボックスに行って盛り上がりました」
そのときに、2人とも昭和歌謡が好きなことがわかった。
「もう僕の中で“結婚するならこの人だな”という気持ちになっていました。それで、“結婚”という言葉を出したのだけれど、最初は軽くあしらわれてしまった。“結婚したいから結婚相談所に入っているはずなのに、結婚する気はないのかな”、“相手が僕だから考えられないのかな”といろいろ考えてしまいました」
知之からこの話を聞いたのと時を同じくして、結子の仲人からも連絡が来た。
「すごくいいお付き合いをさせていただいているみたいですが、8つ上というのを気にしていて、彼がどこまで本気なのかがわからないと言っています」
そこで私は、知之の本心を再確認するために、面談を提案した。
年は違うが似た者同士の2人
面談で、知之は結子についてこんなことを言った。
「最初は、39歳まで実家暮らしをしている女性って、どうなんだろう。家事は母親任せで何もできないのではないかと思っていたんですね」
結子は堪能な語学を生かし、貿易会社で通訳の仕事をしていた。経歴だけ見たらバリキャリだ。しかし、結子が実家暮らしをしているのには、理由があった。
「お母さんの足が悪くて、思うように家事ができないし、遠出をするときには、誰かが付き添わないといけない。お父さんと彼女が手分けをして、お母さんをサポートしてきたみたいなんです。料理は彼女の担当で、土日は作りおきおかずを作ったり、ちょっと調理したら食べられるように1週間分の材料を仕込んだりしているそうなんですよ」
また、結子が27歳のときに、実家の近くに所帯を持っていた兄が31歳の若さで心不全のため、亡くなった。2人目の子どもが生後8カ月のときで、子どもにいちばん手のかかる時期だったので、兄嫁は2人の子どもを連れて実家に戻ったという。
実は男4人兄弟の末っ子だった知之も、次男を交通事故で亡くしていた。兄弟を亡くす寂しさは、身をもって知っていた。
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