「宮川選手=正義」「塚原夫妻=悪」はまだ早い スポーツ界に連鎖する「勇気の告発リレー」

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思えば、日本ボクシング連盟・山根明元会長のときは、告発された内容があまりにひどく、本人みずからがしゃべってしまったため、「世間の人々とメディアが、叩けるだけ叩いて辞職に追い込んだ」という流れになりました。しかし、今回は速見コーチと体操協会の両者にパワハラ疑惑があるなど状況がより複雑なだけに、第三者にすぎない世間の人々とメディアが、早急に善悪の色分けをして叩きまくるのはどうか、と感じてしまうのです。

たとえば、現段階で塚原夫妻を断罪するのは、「暴力はダメ」の一辺倒で速見コーチを排除して宮川選手を困らせている日本体操協会と、さほど変わりません。宮川選手は速見コーチの指導について、「厳しさの中にも人の何倍もの楽しさや優しさがあります」「『今日も早く練習に行きたい』と思わせてくれる要素がたくさん含まれています。だから私は体操が好きで毎日楽しい」と話していました。

そのコメントを受けて世間の論調は、「素晴らしいところまでスポイルして、反省や改善の機会を与えないのはひどい」という速見コーチ寄りのものに固まりつつありますが、これも勇み足。現在は宮川選手と日本体操協会それぞれの見解があるのみにすぎず、やはり第三者委員会の調査結果を待ちたいところです。

あなたがもし賢明なビジネスパーソンなら、宮川選手の勇気にほだされて日本体操協会を悪とみなし、断罪するのではなく、「しばらくは見守る」というスタンスが得策。「感情論に流されてSNSで発信」などの軽はずみな言動は避けたいところです。

同じ名字の日大アメフト選手が重なる

宮川選手の会見について、ぜひふれておきたいのは、告発に踏み切った勇気。会見冒頭のあいさつで宮川選手は、「今現在さまざまな報道がなされている中で、私自身の言葉でしっかりとすべての真実を語るために、記者会見の場を設けていただき、今日この場に来ました。何日も自分の気持ちと向き合って考えてきました。うそ偽りなく語ります」と宣言しました。

その姿と発言を見聞きして、日大アメリカンフットボール部・宮川泰介選手(20歳)の姿を思い起こした人は多かったでしょう。当時、必死に話す宮川選手を見て、「やってしまったことは悪いけど、多くの批判を受け、選手生命を絶たれることを覚悟して会見に挑んだ姿勢は素晴らしかった」という称賛の声が飛び交いました。

その後、ボクシングの騒動では、現役WBA世界ミドル級王者の村田諒太選手(32歳)がFacebookで、日本ボクシング連盟の「古き悪しき人間達」を毅然とした態度で批判しました。そして今回の体操・宮川紗江選手。競技の異なる現役アスリートたちが、まるでバトンを受け渡すように“勇気の告発リレー”をしているのです。

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