安倍首相を襲う「9.30沖縄決戦」という試練 辺野古移設問題で「オール沖縄」と対峙

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「首相の政権運営を左右する」とされた6月10日投開票の新潟県知事選は与党候補が野党統一候補に競り勝った。野党側は「共産・社民主導の選挙戦となったのが敗因」(国民民主幹部)と分析しているが、今回の沖縄知事選も「選挙戦はまったく同様の構図」(立憲民主幹部)となる。だからこそ、野党陣営は翁長氏死去による「弔い合戦」に活路を求めるのだ。

選挙戦とは別に、玉城氏出馬による「政治的副産物」も政界の話題となっている。国政レベルでは自由党の衆院議員が小沢氏1人となるため、衆院での野党協議では、党代表の小沢氏が幹事長や国対委員長を兼務せざるを得なくなる。野党幹部は「小沢さんが国対委員長会談に出てきたら、他党は戸惑う」(社民党)と苦笑するが、「ものぐさでプライドの高い小沢氏だけに、秋の臨時国会以降は野党の国会対応は党首会談で決めることになる」(立憲民主党)との見方も広がっている。

さらに、公職選挙法上は玉城氏の知事選出馬に伴い、通常なら10月28日投開票の衆参統一補欠選挙として沖縄3区補選が実施される。ところが、昨年の衆院選をめぐっては全小選挙区について「1票の格差訴訟」が続いているため、補選は来年4月以降になるのが確実だ。9月30日の知事選と宜野湾市長選に続いての補選実施とならなかったことで、自民党は「沖縄でのトリプル選挙が避けられたのは大きい」(細田派幹部)と肩をすくめる。

こうした政治的要因が錯綜する中での「沖縄決戦」は、両陣営にとって「秋以降の政局展開を左右する1カ月の短期決戦」(自民幹部)となる。

玉城氏は出馬表明会見で「既成事実を積み上げて県民のあきらめを狙い、基地と沖縄振興を絡ませて県民の中に『対立と分断』を持ち込もうとする。これが法治国家といえるか」と、辺野古移設手続きを強行しようとしている安倍政権を厳しく批判した。会見会場の那覇市のホテルは翁長氏宅のすぐそばで、会見には翁長氏の次男・雄治氏も同席。会見後は玉城氏が翁長氏宅を訪れ、遺影の前で「力を貸してください」と頭を垂れた。

一方、政府与党は「沖縄決戦に敗れれば、辺野古移設が暗礁に乗り上げ、首相の命綱でもある日米同盟にも影響が出る」(官邸筋)との不安から、沖縄財界も巻き込んでのなりふり構わぬ「総力戦」で「弔い合戦」に対抗する方針だ。沖縄では自民党が衆参選挙や知事選で負け続けてきたが、ここにきて、県内の各種地方選挙では「自公維」の枠組みで勝つケースが続いている。野党共闘に対しても「辺野古移設は民主党政権も認めたもので、いまさら反対しても県民は戸惑うだけ」(自民幹部)と牽制する。

「剛腕・小沢氏」の最後の戦いにも

今回の知事選で久しぶりに前面に出た小沢氏は、「選挙に強い剛腕」と呼ばれ続けてきた経験を踏まえ「弔い合戦というムードだけでは勝てない」と野党各党の共闘強化に必死だ。来年、「衆院議員50年」を迎える小沢氏にとって「沖縄決戦は安倍政権打倒に向けた最後の戦い」(側近)でもある。

逆に、首相サイドは知事選勝利で「政権運営の長年の懸案だった普天間基地移設問題の最終決着」(政府高官)につなげたい考えだ。ただ、知事選を前に政府与党幹部はそろって辺野古移設についての言及は避け、沖縄振興による経済効果ばかりをアピールしている。辺野古移設が唯一の争点となれば選挙戦が不利になるため争点をずらすもので、「安倍政権の常とう手段」(共産党幹部)でもある。知事戦の指揮官となる二階俊博幹事長も「 外から『移設を推進すべきだ』と言うほど話がこじれる」と辺野古移設には口をつぐむ。

告示日を前に二階氏は9月3、4日に沖縄入りする。総裁選で石破氏支持を表明した竹下亘総務会長も二階氏に続いて現地入りし、沖縄問題の司令塔である菅義偉官房長官も告示前にテコ入れに訪れる予定だ。ただ、首相は総裁選後も「地方選挙」を理由に現地入りはしない方針だ。

野党側も小沢氏を先頭に各党党首や幹部が応援に入る予定で、9月の沖縄は「知事選一色」となる。現地の選挙専門家は「今のところ情勢は五分五分」と読む。「沖縄の選挙はいつも大接戦になる」(地元有力者)のがこれまでの歴史で、基地周辺での米軍機の事故など「なにか事件あれば情勢は一挙に変わる」(同)だけに、3選後の首相も「ハラハラドキドキの月末」(側近)となる。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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