職人400人が作るサンダル「リゲッタ」の秘密 硬いアスファルトを快適に歩く様々な工夫

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現物を手に取ってもらう機会が少なく製品のよさがなかなか消費者に伝わらないのが悩みでしたが、通販番組とカタログ誌に活路を見いだします。テレビの通販番組や千趣会などの大手通販カタログ誌でリゲッタの特長をしっかり伝えてもらうことにより、口コミで話題になって愛用者が増えていきました。今では、ジャパネットたかた、ニッセン、ディノス、アマゾンなどでも幅広く販売し、2005年の発売から2018年8月までで累計700万足を突破しました。

高本社長のもう1つの願いは、地元の活性化です。サンダルの製造工程は、30~40工程がありますが、ほぼ生野の職人さん400人の力を借りて作り上げています。社内でデザインを企画し、地元の各業者が一体となった“生野工場”のバトンリレー生産で完成品に仕上げ、同社で最終検品をして出荷します。

生野の職人さんの特長は、仕事が早いことです。裁断、ミシン、圧着など各作業を迅速に進めるので、数を多くこなせます。それで、国産でありながら比較的低価格での提供が可能となります(リゲッタカヌーの価格は税込み6458円~)。1人でも多くの人に使ってほしい、という高本社長と生野の職人さんたちの気持ちがこもった製品なのです。

いつかナイキやアディダスと肩を並べたい

高本社長の次のテーマは、海外戦略です。7~8年前にアメリカの展示会に出た縁で、すでに台湾、マレーシア、ドバイなど現地企業とのコラボで約30店舗を出店しました。そして今後は、社内にプロジェクトチームを発足させ、3年後をメドにラスベガスで開かれる世界的な展示会に出展を検討中です。

「いつかナイキやアディダスと肩を並べたいと思っています。できない理由はどこにもないですから」と高本社長。そしてその戦略の一環として準備をしているのでは、と筆者が密かに思うのが、宝塚出身の世界的漫画家・手塚治虫作品とのコラボレーションです。

実は高本社長は、幼いころからの熱烈な手塚ファン。本社の本棚にもたくさんの手塚作品が並んでいるそうです。またリゲッタの丸みを帯びたデザインは「手塚作品の足元のデフォルメ、丸さから影響を受けて出来上がったものです」と語るほど。手塚マンガへの思い入れは人一倍です。

『鉄腕アトム』のアニメは、日本での放送が始まって直ぐにアメリカのローカル局でも放送されました(1963年)。『アストロ・ボーイ』という外国名をご存じの方も多いのではないでしょうか。受け入れに紆余曲折はあったようですが、2009年にはアメリカ・香港合作の『ATOM』という劇場版コンピューターアニメも製作されています。手塚作品としては『アトム』のほか、『ブラック・ジャック』『火の鳥』なども出版されています。

アメリカではすでにおなじみの顔ぶれなのです。これら手塚作品のキャラクターを上手にデザインしたリゲッタ・サンダルは、ジャパニメーション好きのアメリカ人にはすんなり受け入れられる可能性があると思います。

リゲッタ・シリーズの1つが2015年大阪府主催の「大阪製ブランド」に認定、また2017年には高本社長自身が「なにわの名工」を受賞するなど、リゲッタ・ブランドのわが国での評価はすでに定着した感があります。

これからは、手塚作品を切り口に、その機能性も大いに喧伝して、アメリカ履物市場にリゲッタの一大旋風を巻き起こしてほしいものです。日本古来の「下駄」を現代によみがえらせたリゲッタ、これぞまさに外国に受け入れられるJAPANブランドの逸品だと思うのです。

竹原 信夫 日本一明るい経済新聞 編集長

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たけはら のぶお / Nobuo Takehara

有限会社産業情報化新聞社代表取締役(日本一明るい経済新聞編集長)。1971年3月、関西大学社会学部マスコミ学科卒、同年4月にフジサンケイグループの日本工業新聞社に入社。その後、大阪で中小企業担当、浜松支局記者などを経て、大阪で繊維、鉄鋼、化学、財界、金融などを担当。1990年4月大阪経済部次長(デスク)、1997年2月から2000年10月末まで大阪経済部長。2001年1月に独立、産業情報化新聞社代表に。年間約500人の中小企業経営者に取材、月刊紙・日本一明るい経済新聞を発行している。
 

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