そんな中、高本社長は「発注元に左右される下請けから脱して独立したメーカーになろう」と決意します。そして、国内外の靴製造現場を見て回った経験を活かし、2005年、「リゲッタ(Re:getA)」ブランドを立ち上げます。
現代に、下駄をもう一度
「日本の下駄は、指先に少し力を入れるだけで蹴り出せるし、なおかつ躓きにくい。父親と2人、これはすばらしい特性だ、と話し合いました。この日本古来の機能性に、現代人間工学の技術を加味した履物を作りたい、と思いました」
「GETA(下駄)」を「RE:(もう一度)」で、「Re:getA(リゲッタ)」です。ただ当初は、機能性に重きを置きすぎてファッション性が低く、消費者にあまり受け入れられませんでした。履き心地に加え、洗練されたデザイン性をどう融合するか。高本社長の、挑戦が続きます。
翌2006年には法人化して、社名を「シューズミニッシュ」に変更しました。この名前は、高本家で飼われていたミニチュア・シュナイザーという犬種に由来します。高本社長らしいシャレたネーミングと思います。
リゲッタの売り上げは苦戦していましたが、高本社長の「硬いアスファルトと対話できる『はきもの』を作りたい」という熱い思いは変わりません。そうした思いがビンビンと伝わってくるのが、同社発行の『リゲッタのすべて』という冊子です。
今時珍しく、イラスト、文章71ページがすべて高本社長の手書きです。その「前書き」には「結構時間がかかっています」とありました。社長業の忙しい中、よくぞこれだけのものを書き上げたと感心しました。リゲッタと同じ、まさに手作りの成果物です。
高本社長がこの本でまず強調しているのが、かかと部分の着地面です。ハイヒールのように点でなく、面で着地する構造です。さらに、直角だった着地面が擦り減ってきた形状を最初から設計しています。自分が歩きやすいように歩くとどうしてもかかとが擦り減りますが、それが自然なら最初からその形にしておこう、という発想です。これを「ラウンディングカット」と言います。
安心して着地し、力をそのままスムーズに前方に押し出すことができます。次につま先です。指先に力を入れるだけで蹴り出す力をサポートするのが、つま先部分の「ローリングカット」です。もともとは足が不自由な人向けに作られた技術で、揺れるロッキングチェアのような感じです。「たまたまかもしれませんが日本の下駄も同じ効果があります」と添え書きがあります。
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