とんねるずがここまで時代錯誤になったワケ 視聴者も「パワハラ芸」に辟易している

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初期の『みなさん』では、コントの中にしばしば番組スタッフが出演していた。とんねるずは身内のスタッフを表舞台に引っ張り出して、時には殴る、蹴るの暴行を加えるそぶりをしたり、水に突き落としたりした。そのような暴挙がおもしろいものとして受け止められていたのは、とんねるずとスタッフがかもし出す「業界」の雰囲気が、多くの一般人にとってあこがれの対象だったからだ。

芸能界やテレビ界が今よりもっとキラキラと輝いていた時代には、テレビの中であえて「内輪ウケ」を志向するとんねるずが格好よく見えた。コントでスタッフがどんなに理不尽な目に遭わされても、とんねるずとスタッフのあいだには確固たる信頼関係がある、というふうに視聴者が好意的に解釈をしていた。

しかし、今の時代の若者にとって、芸能界にはそこまでの魅力はない。そもそも好意的に見ていない場所で、理不尽な暴力やセクハラ、パワハラまがいのことが横行していれば、それはありのままにネガティブなものとして受け取るしかない。

「保毛尾田保毛男」で明らかになった時代とのズレ

とんねるずと今の時代のズレがあらためて浮き彫りになったのが「保毛尾田保毛男騒動」である。

この記事は、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』に掲載した内容の一部を加筆修正したものです(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

2017年9月28日放送の『みなさん』の『30周年記念SP』で、石橋が久々に保毛尾田保毛男の格好をしてロケに臨んだのだ。青ひげにピンク色の頬がトレードマークの保毛尾田保毛男は、同性愛者に対する悪意に満ちた偏見を凝縮させたような往年の名物キャラクターだった。

LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の関連団体などがこの件についてフジテレビに謝罪を求める声明を発表した。ネット上でも多くの人から抗議の声が上がった。これらを受けて、放送翌日の9月29日には、フジテレビの宮内正喜社長が定例会見で謝罪した。

おそらく、つくり手やとんねるず自身は、長年この番組を見守ってきたファンを楽しませたい一心で、過去のキャラクターを復活させてみただけだったのだろう。しかし、LGBTに対する人々の意識も高まっているこの時代に、ノスタルジーだけで過去のキャラクターをよみがえらせるのには無理があった。

『みなさん』が終了して、とんねるずが窮地に追い込まれているのは、彼らが根城にしてきたテレビ界や芸能界という「業界」そのものが、人々から見捨てられつつあるからなのだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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