とんねるずがここまで時代錯誤になったワケ 視聴者も「パワハラ芸」に辟易している

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特別な芸があるわけでもなく、顔がいいわけでもなく、歌やダンスがうまいわけでもない。何も持たないただの「素人」が、強がって共演者や観客に暴言を吐いたり、自由に暴れ回ったりする姿は、今よりずっとハードルが高かった芸能界では異彩を放っていた。

そんな彼らは、歌をうたったり、ドラマに出演したり、コント番組に出たりして、どんどん成り上がっていった。芸人とはあまり積極的につるんだりせず、ミュージシャン、アイドル、俳優などの別のジャンルの芸能人たちと交流を深めていった。素人感を売りにしていた彼らは、いつしか本物の芸能人になった。

彼らはどんなに自分たちの地位が上がっても、かたくなにその芸風を変えようとはしなかった。今でも番組側に用意された企画や台本に縛られず、あえて後輩芸人に冷たく接したり、ひどい目にあわせたりして予定調和を崩そうとする。素人芸こそが自分たちの本質であり、そこから離れてしまうと魅力が一気に失われてしまうことになる、というのがよくわかっているからだ。

「パワハラ芸」は今の時代にそぐわない

しかし、徹底して「負け顔」を見せない強気な姿勢が、パワハラを嫌う今の時代の空気には合わなくなってきた。とんねるずはデビュー当時、何も持たないただの若者だった。だから、彼らが好き放題に暴れて上の者に噛みつくのが同世代の若者に熱狂的に支持されたのだ。

だが、現在のとんねるずは、地位も名誉もお金も、何もかも手に入れてしまった絶対強者である。そんな彼らが権力者としてふんぞり返っている姿は、それだけで反感を買ってしまいやすい。

『みなさん』で数年前から行われてきた、とんねるずが後輩芸人に自腹で数十万円から数百万円もする高級時計を買わせるという企画は、典型的な「パワハラ企画」だと言える。もちろん、その場のノリで半ば強引に時計を買わせてしまうというこの企画は、パワハラ的だからこそおもしろいのだ。しかし、職場などで本物のパワハラに苦しめられた経験のある人にとって、彼らの振る舞いは笑えないものとなってしまう。

現在、とんねるずのタレントとしての好感度は地に落ちている。特に石橋がひどい。『日経エンタテインメント!』(日経BP社)の「嫌いな芸人ランキング」では石橋が2016年、2017年、2018年に3年連続で1位になっている。とんねるず的なパワハラの流儀は今や完全に時代遅れになっているのだ。

2015年に出版された拙著『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』の中で、とんねるずとダウンタウンを対比させるために私は「ヤンキー的/オタク的」という言葉を用いた。体育会系のノリでハッタリを駆使して芸能界をのし上がろうとするとんねるずの石橋貴明は「ヤンキー的」であり、笑いという知的ゲームで自らが最強であることを示そうとするダウンタウンの松本人志は「オタク的」である、というふうに定義した。

ここ数十年で世の中の流れはヤンキーからオタクに傾いている。「ヤンキーは格好いい、オタクはキモい」という時代から「ヤンキーはダサい、オタクは普通」という時代に移り変わったことで、ヤンキー的な価値観を貫くとんねるずは苦戦を強いられている。

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