脱北者の元作家が送る波乱万丈すぎる人生 日本で生まれ海を渡り「党員」になった末に

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そして2009年、金さんは夜中の川を渡り中国へ脱出した。

中国では、朝鮮族のブローカーに監禁された。彼らは「北朝鮮の女性を売り飛ばす」などして稼ぐ、どす黒い人たちだった。彼らにとって、在日朝鮮人である金さんは「金持ちに違いない」という印象だったのだろう。

「日本にいる知り合いが10万円を送ってくれることになりました。しかし、『それでは足りない。もっと送ってもらえ』と強要されました」

朝鮮族の人たちは人脈を使って日本の親類縁者の連絡先を得て、

「中国でつかまっているから、金を送れ」

と勝手に脅迫電話をし始めた。

親類は金さんが金のために自作自演をしていると誤解し、お金を送らなかった。

「監禁が続き『もう殺せ!!』と朝鮮族の人たちに言いました。脅迫してももう意味ないよって。女は嫁に行くとか使い道があるけど、男にはないですからね」

すると、朝鮮族の人に中国の大連に行けと言われた。韓国人が経営している魚の加工工場があるから働かないか?というのだ。過酷な労働であることは目に見えていたが、金さんはその話に乗った。

午後3時のバスで大連に行く予定だった。バスを待っていると、午後2時に近所にあったキリスト教会の伝道師の若者があらわれて

「韓国に行きましょう!!」

と話しかけてきた。

「まさに神の助け。奇跡が起きたんですね。それで私は韓国に行くことになりました。そのときすでに、40代初めになっていました」

「今は幸せですね」

韓国に着いたときは感激だった。とにかく何を見ても何をしてもウキウキした。

しかし、実際に社会に出た後、何をしていいのかわからなかった。歳も歳だし、就職もできない。そんな折、国から“北朝鮮を知らせる奉仕活動”をやらせてもらえることになった。

脱北して良かったという金さん(筆者撮影)

「以来、ほぼ休みなく働いてますね。学生相手の講演会だと、1講演2万円くらい。企業がバックについた講演会は、1時間5万円はいただけます。民法テレビやラジオにゲストで出演することもありますし、ネットTVにも週4回出ています。日本でも北朝鮮関連ニュースにコメントを寄せることもあります」

現在、金さんの収入は月に30万~35万円だという。韓国の月収は、17万~20万円が一般的なので、まずまず稼いでいるほうだ。

「ただ、講演会は1日200キロメートルくらい移動したりします。電車が使える場合は楽ですが、片田舎の学校だと自家用車で行くことも多いです。年々体力は落ちていますから、厳しくなってきますね。1つの仕事に絞って固定収入が欲しいのですが、それも難しいですね。

ただ、それでも脱北して韓国に渡って良かったと思います。今は幸せですね」

金さんは北朝鮮でペンを折ったが、最近では再び書き始めている。

日本で発売した『跳べない蛙』は北朝鮮での作家生活を中心につづったノンフィクションだが、これからはフィクションの作品も書いていきたいと思っているという。

強烈な人生を送ってきた氏がつむぐ物語はどのようなものなのか、とても興味が湧く。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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