万引きで実刑を食らった女性の壮絶な半生 摂食障害を経て「窃盗症」になった

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それから、母は洋裁が大好きな人だったので私の服を手作りしてくれていたのですが、「あなたは太っているから既製の洋服では入らない」とよく憎まれ口を叩いていました。

だから、自分の体型にはすごくコンプレックスがあったんです。でも、食べることが大好きだったので、大学生の頃まではやせようと思ったことはありませんでした。

母からのプレッシャーがストレスに

――母親の言葉が影響していたと。

そうです。それから、21歳のときに父が亡くなったんです。父は母と違って、このままの私を愛してくれた唯一の人でした。その父が亡くなってすごくショックでした。

しかも、父が亡くなった後は、「もう私の生きがいはあなただけ」と母の想いが全部私に向けられて……。

父の死よりも、母からのプレッシャーがストレスになっていたのかもしれません。

それから半年後くらいに、冒頭の21歳の頃付き合っていた人の「最近太ったね」という言葉がきっかけで摂食障害がはじまったんです。

――クレプトマニアとの関連性はあったのでしょうか。

万引きをしていた頃は、自分でも何が何だか分からなかったのですが、今通っているクリニックの主治医の話を聞いたり、自分で勉強をしたりした今思うことは、摂食障害も万引きも根本的な部分は同じだったということです。

過食をやめても根本にある母親との関係性などが変わっていなかったから、万引きをするようになったんだと思います。

薬物やアルコール、窃盗、摂食など、いろんな依存症があるなかで、薬物は手に入れるのが難しかったですし、私の場合はアルコールではなかったんです。それほどお酒が好きでもなかった。

そのなかで窃盗がいちばんやりやすかったのかなと考えています。

※ ※ ※

女性は海外逃亡の末、1年3カ月の刑務所生活を送りました。

あらゆる社会問題同様に、彼女が刑務所に至る行動の背景には家族関係が大きく影響を及ぼしていました。

現在の母親との関係性について聞くと、次のように語ってくれました。

「母に対して恨みもありましたが、年老いた母を見ると責める気にもならないですし、今、自分も母親になって子育てをしていると、母が発したことばも悪気はなかったのかなと思うようになりました。私の病気のことなどを完全に理解はしていなくても、私が受刑したことでやっと私の気持ちを少し分かってくれたんです」

今、彼女はみずからの子育てや治療を通して、客観的な視点で、自分自身や母親との関係性を見つめ直しているようでした。なお、彼女が回復に向かっていく過程を聞いた後編(治療のきっかけは「恐怖」。窃盗症当事者の苦悩)も、ぜひ御覧ください。

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「リディラバジャーナル」編集部

「リディラバジャーナル」は社会問題の現場を訪れるスタディツアーを提供しているリディラバが2018年1月に立ち上げたウェブメディア。社会問題を見続けてきたリディラバの知見をもとに、問題の背景にある社会構造まで踏み込んだ、特集形式で記事を提供する有料メディアです。

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