LINEペイ、「客にも店にも大奮発」を貫く理由 手数料「3年間タダ」の先に描くビジネスとは?

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LINEにとってのアドバンテージは、圧倒的な規模のメッセンジャーサービスを築いている点だ。決済と並ぶウォレットサービスの主要機能に、立て替え、割り勘などで発生する個人間送金がある。月間7600万人が利用しているLINEアプリなら、すでに親しい友人や家族との日々のコミュニケーションに使われており、送金機能の親和性が高い。わざわざ別アプリをダウンロードする必要がないという点でも、心理的ハードルが低い。

メッセンジャーアプリとしての強みは加盟店開拓においても武器になる。「飲食店や小売店が売り上げを拡大するために、決済後のコミュニケーションは重要。LINEはそこまで合わせて提供することができる」(長福氏)。スマホ決済時に顧客のアカウントと友だち登録を行えたり、購入履歴に応じ店舗情報やクーポンを配信できたりする機能が加盟店にうけているという。

スマホ決済に対する信頼を醸成できるか

盛り上がり始めたスマホ決済市場、今後各社の生き残り競争はどう展開していくのか。長福氏は「日本でも中国同様、数社の強いサービスが並行して使われるようになっていくのでは」と見る。メッセンジャーアプリ発のスマホ決済サービスとしては、中国のウィチャットペイが同国内で巨大サービスに成長している。同社の成長過程が、LINEにとっても一つのモデルケースとなりそうだ。

LINE Payの長福久弘COOは「スマホ決済のメリットをしっかりと訴求していく」と語る(記者撮影)

一方で、「中国の現状がそのまま日本の未来」と考えるのは早計だろう。特に個人情報の取得、広告など他事業への利用にかかわる意識は、中国と日本で大きく異なるため、やり方を間違えれば一気にユーザー離れを起こす可能性はある。「日本に準拠した形、ユーザーが不快にならない形で進めるのはもちろん、データを預けてもらうにはしっかりメリットを訴求できなければと考えている」(長福氏)。

もう一つの事業リスクは、スマホ決済全体に対する信頼が揺らぐことだ。中国では店頭に設置していたプリント型のQRコードを勝手にすり替えられ、店が収益を横取りされるといったトラブルが実際に多発している。「決済は安心安全が絶対だが、QRコード決済はまったく新しい文化なので、中国でもさまざまなトラブルが起きながら成長している。これを業界全体でしっかり研究し、技術的に制御できる体制を築く必要がある」(長福氏)。

日本では現在、約20の業者が関連の決済サービスを提供しているが、これが将来、100事業者以上に増えるという見方もある。仮想通貨しかり、一つの不祥事で業界全体へのイメージが大きく悪化し、成長の勢いがそがれるケースは珍しくない。そうならないための対策も、LINEペイに限った話ではないが、業界全体の課題といえそうだ。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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