曲直瀬道三が日本医学「中興の祖」である理由 「医」で日本を制した戦国名医の功績

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山崎:その頃にシーボルトがやって来て、医学にも蘭学の知見が入ってきますね。

秋葉:シーボルトが来日したのが1823年ですが、それから5年後、1928年に離日するときに例のシーボルト事件が起こるわけです。彼がヨーロッパから日本に来たときは、わずか28歳ですよ。ヨーロッパの大学を出て、すぐに大学院に入って学位を取っている。最短最速のキャリアですよね。彼はまだ経験が浅くて腕は拙かったかもしれませんが、当時の西洋の新しい文献を数多く日本に紹介し、その文献を教科書として医療知識や手術方法などを日本人に教えたのです。

原理原則が教えられれば、日本人は器用ですからみるみる医療技術は向上していきます。そうして蘭学という新しい医学が日本に根づくことになります。それから50年すると、もう明治の世になって、漢方にとっては不幸な時代に入ってしまうわけです。

漢方医学への期待、可能性は大きい

――しかしながら、今、漢方は再び注目されていますよね。

秋葉:意外と思われるかもしれませんが、日本の漢方という学問が確立し、広く使われるようになったのは1976年からで、まだ約40年しか経っていないんです。ですから、まだまだこれからですね。

今は専門家から見ると不満なことばかりです。私は学会の指導医などをしていますが、似たような薬を何剤も、いくつも同時に出す医師がまだまだいます。資源の無駄遣いにもなるし、この辺りはもっと改善していかなければいけません。

山崎:秋葉先生のような漢方の使い手、もちろん西洋医学も知っていて、それに漢方も詳しい先生の存在は、患者にとって非常に心強く思えます。

秋葉:日本の場合は、漢方が日本の医学の中に入っていったのですね。2001年から大学の中でも漢方を教えることになったわけですから。明治時代以降は、漢方がバッシングされたわけですが、その歴史的な恨み・つらみは、2001年に事実上はらされた。しかし、その結果、漢方で日本の医療のレベルが上がったか、あるいは患者さんの満足度が上がったかというと、必ずしもそうではありません。

私から見ると、本来の意味での漢方の使い方がされていない。単に西洋医薬の中の1つのカテゴリーとして漢方薬が投与され、治療に使われているだけですね。本当の意味で、漢方を漢方らしく使うということはこれからだと思います。それにはもうひと工夫、もう1回脱皮しなければならないでしょう。それはなかなか難しいところがあると思います。

山崎:しかし、漢方医学に対する期待は非常に大きくなっています。

秋葉:現代医学は、ゲノム解析をはじめとして、高感度な分析機器を駆使した疾病診断能力において飛躍的な進歩をとげました。しかし、疾病の原因診断はできたものの治療方法はないという、“標準治療が確立されていない”病気は、診断機器の進歩とともに次第に増加しています。

西洋医学と“異なる視点”で病因を把握し、治療方法を探る漢方の考え方に立てば、複数の治療薬を提案できる可能性があります。この立脚点こそが、道三が実践した漢方の伝統的な方法論です。

漢方は現場の医師にも希望を与えています。打つ手がないと言われて絶望した患者でも、漢方は治療法を提案することができるからです。その場合、高額な検査機器や薬はいりません。また現行の医療システムでは、漢方薬は不当といえるほど安く、患者さんにとってもありがたい医療なのです。

漢方医学のサポートがあれば、西洋医学は存分に病気治療に打ち込むことができるでしょう。西洋医学と同じ土俵にあればこそ、漢方医学は西洋医学のお役に立てるのです。わが国の漢方診療の特徴はここにあります。この領域が今後とも発展を続けることは疑いありません。

秋葉 哲生 あきば伝統医学クリニック院長

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あきば てつお / Tetsuo Akiba

1947年千葉県生まれ。1975年千葉大学医学部卒業。医師。医学博士。漢方は藤平健先生に師事。慶応大学漢方医学センター客員教授、東邦大学佐倉病院客員教授等を経て、現在、あきば伝統医学クリニック院長。東亜医学協会理事長、月刊『漢方の臨床』編集長も務めている。

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山崎 光夫 作家

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やまざき みつお / Mitsuo Yamazaki

1947年福井市生まれ。早稲田大学卒業。TV番組構成業、雑誌記者を経て、小説家となる。1985年「安楽処方箋」で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。主な著書に『ジェンナーの遺言』『開花の人 福原有信の資生堂物語』『薬で読み解く江戸の事件史』『小説 曲直瀬道三』『鷗外青春診療録控 千住に吹く風』など多数。1998年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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