「美人すぎない」39歳女性の「ほどよい結婚」 「ちょうどよい」ことは"決め手"になる

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洋介さんも「世話好き」の小百合さんにほれ込んだ。ただし、開業準備に気持ちが向きすぎて、結婚に踏み込もうとはしなかった。具体的に何をすればいいのかわからなかったのかもしれない。

当時、小百合さんは別の男性からもアプローチを受けていた。出会ってまもない洋介さんにこだわる必要はない。小百合さんはその心境を率直に伝え、洋介さんの決断を促した。

「(結婚は)どうしますか? 私はどっちでもいいんですけど」

驚愕した洋介さんは実家に相談。とにかく小百合さんを両親と姉に紹介することにした。

「お義母さんから『あなたたち、結婚する気はあるの?』と聞かれて、彼は黙ってうなずいていました。それがプロポーズです(笑)」

いま、小百合さんと洋介さんは静岡県内で医療関係の自営業を営んでいる。経営面は小百合さんが管轄し、現場はまじめな洋介さんが取り仕切っている。従業員も数人抱え、顧客は増加中だ。

「経営の仕事自体は面白いですし、仕事場ではトップである夫を立てています。でも、仕事場と家庭で同じ人とずっと一緒にいるのは嫌なんです。話すことがなくなりますよ。家でも『あの書類にはいつ目を通してくれるんですか?』と夫に催促したり……。だから、休業日の夜は各自で夕食をとることに私が独断で決めました」

プレゼントの代わりに

世話好きを自任する小百合さんだが、事務能力も家事能力も皆無の洋介さんに少しあきれぎみだ。誕生日などに高級ブランドのバッグを買ってくれようとした洋介さんにこう宣言した。

「私はブランド物には興味がありません。プレゼントの代わりに、自分の茶碗は自分で台所に下げて洗う習慣をつけてください。靴下は丸めずに伸ばして洗濯かごに入れてください」

洋介さんは驚いた顔をしていたが怒ったりはしない。小百合さんの指導の下で、少しずつでも自分のことは自分でできるようになっていくのだろう。洋介さんの老後を考えると、小百合さんからの最良のプレゼントだと思う。

子どもは今のところ授かっていない。授かればすごくかわいがる予感がする小百合さんだが、不妊治療を受けてまでは欲しくない。東京に住む妹が体調を崩したとき、小百合さんは半年間も妹の子の面倒をみたことがある。その甥の写真をつねに持ち歩き、ときどき話しかけることで小百合さんの気持ちは満たされる。

「夫を甥に見立てて話しかけることもあります。夫には『イメージが壊れるから何も話さないで』と注意してからです」

他人の筆者には理解しがたいが、ほのぼのとした家庭の一風景なのかもしれない。小百合さんは結婚の意義をさっぱりとした口調で語る。

「そろそろ結婚しなさい、と周囲から言われなくなったことがいちばんうれしいです。夏休みの宿題をようやく出せたような気持ちですね」

洋介さんは私と一緒にいるときがひたすら幸せそうだ、と小百合さんは笑う。元来は「ひとり好き」の小百合さんも、夜中に2人で散歩しているときなどはそんな彼を愛おしいと思う。

夫婦であってもつねに同じ分量だけ相手を思っているわけではない。1日の中でも感情の起伏はあり、いつでもどちらかが片想いだとも言える。そのせつなさと緊張感を楽しむことが夫婦関係を長続きさせるコツなのかもしれない。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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