富士の樹海に伝わる「5つの都市伝説」の真実 「コンパスが効かないから迷う」は本当なのか

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今から10年ほど前に訪れた時、僕はドアをノックした。ドアは開き、年配の女性が現れた。

少し訝しんだ目で見られた。

「今大事なプロジェクトが進行中だから、外部に情報が漏れるのはヤバイの。とりあえず入って」

と言われた。プロジェクトって何?と思いながら、中に上げさせてもらった。

屋内はかなり広かった。テーブルの置かれた居間があり、その隣には信仰の対象物や、黒板などが置かれた修行部屋があった。話を聞くと昔は信徒さんが通っていたそうだ。

しばらく室内で待つと、はげ頭僧形のおじいさんが帰ってこられた。

独自の宗教団体を続けているおじいさん

「こうして今日会えたのは運命だね。ここは道場なんだ。道という漢字の意味がわかるかね? 米を車に載せたら迷いになる。そして首を載せたら道になる。道場に来るならば、真剣になって首を持ってこい!!」

と、とてもテンション高く話始めた。ちょっと面食らったが、おじいさんは長年ここで独自の宗教団体を続けているそうだ。

おじいさんがここにたどり着いたのは、太平洋戦争直後だという。軍に入隊した途端に戦争が終わってしまい、目的を見失って、自殺しようと思い樹海をさまよったという。そしてこの場所を見つけた。

乾徳道場の眼の前には洞窟があり、その洞窟の上にはたくさんの碑が建っている。碑には富士講のマークが書かれていた。先程述べた山岳信仰だ。見ると江戸時代より古い物もあるようだった。どうやらここは、昔から富士山へ登る道の通過ポイントだったようだ。

おじいさんはかなり盛り上がり、長時間、話を聞かせてくださった。

「ここは神の国が来る日を自覚する施設なんだ。神の国、そこに人類はいない。私たちは人類を終わりにする仕事をしているんだ!!」

とちょっと恐いような話をしてくれた。ただ説法が終わった後はとてもなごんだムードになった。よかったらご飯を食べていきなさいと言われ、混ぜご飯、ジャガイモの煮物、漬け物などを出していただいた。どれもおいしかったが、冷たかった。電気やガスはあるようだが、極力使っていないようだった。

室内は暗くなり、おじいさんの顔がボヤッとしか見えなくなってきた。

日が暮れてしまったら樹海は真っ暗になるので、帰るのはかなり困難になる。どうしようかと迷っていると

「よし、下まで送ってやろう」

と言って、おじいさんが立ち上がった。

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おじいさんに夜の山道を歩かせるのは申し訳ないな、と思っていると先程の四角い建物のシャッターを開けた。中には自動車が収納されていた。ガレージのような建物ではなく、ガレージだったのだ。

行きはあんなに大変だった道だが帰り道は、スイスイと簡単に降りることができた。

なんとも不思議な経験だった。

都合2度お会いしたが、それ以降10年ほどお見掛けしていない。乾徳道場は健在だが、空き家になっているようだ。現在もどこかで元気で過ごしてらっしゃるといいのだが。

この施設がおそらく、都市伝説の宗教団体だろう。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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