人は太るとどうして病気になってしまうのか 内臓脂肪の炎症反応と「異所性脂肪」の存在

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炎症反応が起こると脂肪細胞の性質が変わり、脂肪細胞自身も炎症反応を促進するアディポカインを分泌するようになります。

その結果、炎症反応がどんどんと進んでしまう悪循環が生じて炎症反応は慢性化してしまうのです。つまり、肥満状態というのは、内臓脂肪において慢性的な炎症反応が続いている状態といえます。そして、この炎症反応によって脂肪細胞は悪玉のアディポカインを分泌し続けます。

異所性脂肪の存在に注目が集まっている

皮下脂肪と内臓脂肪に次ぐ第三の脂肪として、現在、「異所性脂肪」が注目されています。炎症反応に加えて、この異所性脂肪が、内臓脂肪型肥満でさまざまな病気が起こりやすくなっている原因の1つになっています。

内臓脂肪型肥満で脂肪細胞が限界まで大きくなると、脂肪細胞はそれ以上中性脂肪をためておくことができなくなります。そうなると、脂肪細胞は取り込んだ脂肪酸とグリセリンを血中に放出し始めます。前述したように、免疫細胞はこの放出された飽和脂肪酸に反応して炎症反応を起こします。

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一方、血流に乗って全身に運ばれた脂肪酸は、肝臓や筋肉、心臓、膵臓などの細胞に取り込まれます。エネルギーが不足している状態では、これらの脂肪酸はエネルギー源として利用されますが、肥満状態ではエネルギーが足りているため、「中性脂肪」として細胞内に蓄積されます。これが異所性脂肪です。

つまり異所性脂肪とは、「脂肪組織とは異なる場所(異所)に蓄積される中性脂肪」のことです。

日本人ではBMIが25未満で肥満の基準を満たさない場合でも、内臓脂肪が多い状態では異所性脂肪が沈着しやすくなっていることが分かっています。異所性脂肪は細胞にとっては「毒」のように働きます。

このため、異所性脂肪がたまると、肝臓や筋肉、心臓、膵臓の機能が低下してしまうのです。

以上のように、肥満状態では、炎症反応にともなって内臓脂肪から分泌される悪玉のアディポカインと異所性脂肪によって体のあちこちで異常が生じます。

その結果、糖尿病、高血圧、高脂血症(脂質異常症)など、さまざまな疾患が起こると考えられています。すなわち、肥満状態で体質が大きく変化することが、さまざまな疾患の原因なのです。

参考文献
・Berrington de Gonzalez A et al. (2010) Body-mass index and mortality among 1.46 million white adults. New England Journal of Medicine, 363, 2211-2219.
・小川佳宏(編)『異所性脂肪(第2版)』(日本医事新報社、2014)
新谷 隆史 基礎生物学研究所統合神経生物学研究部門准教授

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しんたに たかふみ / Takahumi Shintani

1966年京都府生まれ。京都大学農学部食品工学科卒業。総合研究大学院大学生命科学科博士課程修了。博士(理学)。基礎生物学研究所感覚情報処理研究部門助手、同研究所統合神経生物研究部門助教を経て現職。分子生物学及び生化学の解析技術を用いて、脳の形成機構、視覚神経回路の形成機構、記憶・学習の制御機構の解明に取り組んできた。現在は食欲の制御機構と肥満にともなって生じる病態の分子機構を明らかにする研究を進めている。『一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学』(光文社新書)が初の単著。

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