人は太るとどうして病気になってしまうのか 内臓脂肪の炎症反応と「異所性脂肪」の存在

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1990年代の中ごろになって、脂肪細胞が多数のホルモンを分泌していることが分かってきました。現在では、十種類以上のホルモンが脂肪細胞から分泌されることが分かっています。体の中で脂肪組織が占める容積は大きく、また、多くの種類のホルモンを分泌することから、脂肪組織は体内で最大のホルモン分泌器官と考えられています。

専門的には、脂肪細胞が分泌するホルモンを「アディポカイン」、もしくは「アディポサイトカイン」と総称しています。血流に乗って運ばれたアディポカインは、体の中のさまざまな組織や器官に働いて、体全体の代謝や食欲などを調節する役割を果たしています。

ところで、皮下脂肪と異なり、内臓脂肪は増えやすく減りやすいことが知られています。つまり、内臓脂肪は運動や減量などでエネルギーが不足すると速やかに減少するものの、摂取エネルギーが過剰になると増加しやすいのです。内臓脂肪は中性脂肪を合成する能力と分解する能力の両方が高いことが分かっており、これが内臓脂肪の増えやすさと減りやすさに関係していると考えられています。

内臓脂肪が放出するアディポカインの種類や量は、脂肪の蓄積量に応じて大きく変化します。比較的脂肪の量が少ない時には、主に「善玉」のアディポカインが分泌されています。これらの善玉ホルモンは、さまざまな臓器の働きを良好に保つ上でとても大切な役割を果たしていると考えられています。

一方、肥満状態では内臓脂肪細胞の性質が変化して、健康な時に分泌していた善玉ホルモンとは異なる「悪玉」のアディポカインをたくさん分泌するようになります。そして、これらの悪玉ホルモンが体のさまざまな細胞に悪影響を及ぼすことが、糖尿病や高血圧、高脂血症(脂質異常症)の原因となるのです。

内臓脂肪の炎症反応

内臓脂肪を悪玉化させているのが「炎症反応」です。つまり、中性脂肪をたっぷりと蓄積した内臓脂肪では炎症反応が起こり、これが脂肪細胞を悪玉化させているのです。

一部の免疫細胞は体内に侵入した細菌などを見つけると活発化し、それらを排除します。これが炎症反応です。これらの免疫細胞は細菌の表面の脂質成分を感知して活発化します。

一方、肥満状態では内臓脂肪がたくさんの中性脂肪をたくわえているので、脂肪酸が細胞の外に漏れ出しやすくなっています。免疫細胞は、この漏れ出した脂肪酸(特に飽和脂肪酸)を細菌と間違えてしまうことで活発化するのではないかと考えられています。

この結果、内臓脂肪で炎症反応が起こるのです。

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